解説者のプロフィール

五味常明(ごみ・つねあき)
五味クリニック院長。
1949年、長野県生まれ。一橋大学商学部卒業。昭和大学医学部卒業。昭和大学病院形成外科で形成外科学、多摩病院精神科で精神医学を学ぶ。「体臭の悩みの解決には外科治療の技術の他に、心の治療も必要」と考え、心のケアに外科的手法を組み合わせた「心療外科」を新しい医学分野として提唱・実践する。治療・研究の傍ら、テレビなどメディアでも活躍。流通経済大学スポーツ健康科学部客員教授。『なぜ一流の男は匂いまでマネジメントするのか?』(かんき出版)、『気になる口臭・体臭・加齢臭』(旬報社)など著書多数。
●五味クリニック
・東京
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「体臭が気になり仕事に集中できない」
清潔志向の高まりも影響してか、現代の日本には、体臭を気にする人が非常に増えていると感じます。
25歳から49歳の男女約1100名を対象にしたある調査では、「自分や他人の体臭が気になって仕事に集中できないことがある」と答えた人が60%近くを占め、「体臭はビジネスシーンにおいて、マイナスに影響する」との回答は約90%に達しました。
体臭は、仕事や対人関係にまで悪影響を及ぼす問題なのです。
ひとくちに体臭といっても、種類はさまざまです。
私は体臭を、加齢臭・脂臭・汗臭・頭皮臭・足のにおい・口臭の6つに大別しています。
ここでは混同されやすい「加齢臭」「脂臭」「汗臭」を詳しく見ていきます。
①加齢臭
中高年になると出てくる特有のにおいが加齢臭で、原因物質は「ノネナール」です。
毛穴にある皮脂腺からは皮脂が分泌され、皮膚や毛髪を保護しています。
しかし年を取ると、皮脂腺の中で活性酸素が発生して皮脂が酸化しやすくなります。
皮脂が酸化すると、脂肪酸やアルデヒドなど多様なにおい成分が生成され、皮脂のにおいは強くなります。
ノネナールも、におい成分のひとつです。
ノネナール自体は、ろうそくや枯れ草に似たにおいで、単独ではさほど不快ではありません。
ただし、他のにおい成分と混ざると、途端に不快なにおいになるのです。

加齢臭より圧倒的に不快な2種類のにおい
②ミドル脂臭
不快な体臭の代表格は、脂臭です。
30~50代のミドル世代に多いにおいで、ミドル脂臭と呼ばれることもあります。
「ジアセチル」が原因物質で、「古い油のよう」と表現されます。
「つわり臭」とも呼ばれ、女性がかぐと胸がムカムカするような生理的な不快感を覚える刺激臭です。
ミドル脂臭は後頭部から首すじの後ろ側にかけての部分に発生しやすいので、枕がくさい人はミドル脂臭の可能性が高いです。
ジアセチルは、汗の中に含まれる乳酸が、皮膚の表面に生息する常在菌によって分解されると発生します。
ここに、汗や皮脂が酸化してできる中鎖脂肪酸が結合すると、加齢臭とは比べ物にならないほど強烈なにおいが発生します。
③汗臭
汗のにおいも、体から出る不快な体臭の1つです。
主要な原因物質は、尿のにおい成分でもある「アンモニア」です。
全身から出ますが、わきの下など、汗腺が多く集中する部分からは特に出やすいです。
汗を分泌する汗腺には、全身に分布するエクリン腺と、わきの下や性器の周辺など特定の部分のみに分布するアポクリン腺があります。
アポクリン腺から出る汗は、糖質や脂質、アンモニアなどの成分を含み、粘り気があるのが特徴で、ワキガの原因となることもあります。
一方、体温調節のためにエクリン腺から出る汗は、本来は99%以上が水分です。
サラリとしていて、においはほとんどありません。
しかし、生活習慣の乱れやストレスなどが原因でエクリン腺の働きが衰えると、ミネラルや糖質・脂質を多く含むベタベタの「悪い汗」が出てくるのです。
現代人の多くがかく汗は悪い汗で、脂臭・汗臭のそもそもの発生源です。
汗の原料は血液ですが、汗腺から汗が出るとき、体に必要な栄養やミネラルは血液に再吸収されるため、汗として排出されるのは、水分とわずかな塩分だけです。
ところが、汗腺の機能が低下すると、この再吸収がうまくいかなくなるのです。
【チェックリスト】私のにおいは「脂臭」?「汗臭」?

きつい体臭は不健康のシグナル
また、エネルギー代謝(※体内に摂り入れられた炭水化物・脂質・たんぱく質が、酸素や消化酵素などの働きで、運動や体温維持などのエネルギー源となる仕組み)や解毒の機能が低下すると、血液中に悪臭の原因物質が増え、汗といっしょに排出される量も増えます。
疲労がたまったり、血行が悪かったりして、体内の酸素が不足していると、糖質の代謝において多量の乳酸が産生されます。
その結果、汗の中の乳酸が増え、脂臭の発生につながるのです。
一方、汗臭の原因となるアンモニアは、腸内でたんぱく質が分解されるときに産生されます。
通常アンモニアは、肝臓で分解されて尿素となり、尿として排泄されます。
しかし、飲酒、高タンパク・高脂肪な食生活、ストレスなどによって肝機能が低下すると、アンモニアが分解されず、汗とともに体外に出てきます。
きつい体臭は言わば、健康状態の異常を示すシグナルです。
では、気になる体臭を抑えるには、どんな対策が有効でしょうか。
市販の制汗剤や消臭剤の多くには、殺菌成分や汗を抑える成分が配合されており、乱用するのは考えものです。
皮膚を守る常在菌まで殺してしまったり、汗を出せなくなって体内に熱がこもり、熱中症になる可能性が高まったりするからです。
そこで私がお勧めするのは、「重曹水」と「ミョウバン水」、2種類の手作り消臭スプレーの活用です。
重曹はアルカリ性で、加齢臭やミドル脂臭など酸性のにおいに効果的です。
一方、ミョウバンは酸性なので、汗臭などアルカリ性のにおいに有効です。
重曹もミョウバンも安価なので、2種類のスプレーを作り、自分が気になる体臭のタイプに応じ、併用するといいでしょう。
もちろん生活習慣の改善も大事です。
汗腺を鍛えるために、冷房に頼りすぎない、適度な運動をする、夏でもお風呂に入る、睡眠・休息をしっかり取る、暴飲暴食しないなどのことを、ぜひ心がけてください。
「重曹水スプレー」と「ミョウバン水スプレー」の作り方
