解説者のプロフィール
女性ホルモンの減少が骨をもろくし肥満を招く
私のクリニックは、ひざ関節の治療を専門とする整形外科です。特に、いまや国民病といっても過言ではない「変形性ひざ関節症」の治療に力を注いでいます。
変形性ひざ関節症とは、簡単にいえば、ひざ関節の軟骨がすり減ってしまう病気です。ひざ関節の間でクッションの役割を担う軟骨が、すり減ったり欠けたりすると、骨どうしが直接ぶつかって炎症や痛みが生じます。ひざが痛んで曲げ伸ばししにくくなったり、水がたまったりします。これが、変形性ひざ関節症です。
変形性ひざ関節症は、男性に比べて女性の発症率が高いことがわかっています。実際、当院の患者さんも、60〜80代の女性が中心です。女性は男性に比べて、筋肉量が少ないことが関係しています。詳しく説明しましょう。
ひざ関節の内側と外側には、半月板と呼ばれる軟骨があります。加齢で軟骨の水分量が減少するのに加え、太ももの筋力が低下して、ひざの内側に体重がかかりやすくなります。すると、負担の大きくなる内側の半月板が、変性や損傷を来します。その結果O脚になって、ますますひざの内側への負荷が増し、さらに軟骨がすり減るという悪循環に陥るのです。
さらに女性は閉経前後から、エストロゲンという女性ホルモンの分泌が急激に減少します。エストロゲンには、骨形成を助ける作用や、骨を丈夫に維持する働きがあり、分泌が減少することで骨がもろくなります。ひざ関節の骨が欠けたり変形しやすくなったりして、変形性ひざ関節症へとつながります。
また、エストロゲンには脂肪を燃焼する作用もあります。女性の場合、20代から基礎代謝量(安静時に消費するエネルギー量)が減少して太りやすくなるうえに、エストロゲンの減少により、脂肪を燃焼しづらくなるので、肥満傾向になります。
立った姿勢では、ひざに体重の2〜3倍の負荷がかかるため、体重過多はひざ痛の大きな原因となるのです。
骨や筋肉の強化も減量もまずは食事から!

ネバネバ食品は軟骨の元!
以上のことから、変形性ひざ関節症の患者さんには、
「体重を減らす」「骨や軟骨を丈夫にする」「筋肉をつける」という三つを目標に、日常生活を送るよう指導します。
こういうと、ウォーキングやランニングなどを始める人がいますが、お勧めしません。ひざに負担のかからない筋力訓練ならいいのですが、減量も、骨格・筋肉の強化も、まずは食事の改善から始めるといいでしょう。健康的に減量することを念頭に置き、バランスのよい食生活を送ってください。
具体的には、
コンドロイチン、グルコサミン、カルシウム、マグネシウム、ビタミンD、たんぱく質の摂取を心がけることです。これらの栄養素を積極的にとることで、骨や筋肉が強くなり、体重も適正に近づくでしょう。
納豆やオクラ、ナメコ、ヤマイモなどのネバネバ成分であるコンドロイチンは、軟骨の主成分であるプロテオグリカンの材料になります。
コンドロイチンの材料になるグルコサミンも大切です。カニやエビなどの甲殻類に、多く含まれます。
カルシウムは、骨にとって重要な成分として有名です。しかし、日本人の約7割はカルシウムの摂取量が不足しているといいます。牛乳やチーズなどの乳製品だけでなく、骨ごと食べられる小魚やヒジキなどの海藻類にも、カルシウムは豊富です。積極的にとりましょう。
カルシウムは、ビタミンDと併せて摂取すると吸収率が高まります。ビタミンDは、サケやイワシ、サンマなどの青背の魚、イクラやカズノコなどの魚卵、キクラゲや干しシイタケにも含まれます。
マグネシウムは、カルシウムを骨に取り込みます。ピーナッツやアーモンドなどのナッツ類、海藻類、きな粉や豆腐、納豆などの大豆製品に豊富です。
最も重要なのが、たんぱく質です。たんぱく質は、骨や筋肉を作る材料となります。脂身の少ない豚肉や牛肉、鶏胸肉や鶏ささみ、ラム肉、大豆製品、卵や乳製品をとりましょう。
こうした栄養素は、サプリメントではなく、食事で摂取してください。食品からとったほうが効果が高いことを、日々の診療で実感しています。レシピを紹介していますので、参考にしてください。
ひざ痛改善のための食品を積極的に取り入れると、食事がボリュームアップします。その分、ご飯やパン、麺類などの糖質を減らしましょう。
さらに、ひざ痛に悪影響を与える食品も避けてください。
肉の加工品や、インスタント食品に含まれるリン酸塩は、カルシウムの吸収を妨げたり、骨の中のカルシウムを分解したりします。また、カフェインや塩分を過剰に摂取すると、カルシウムが体外へ排出されやすくなるので、注意してください。
服部麻倫
一般整形からスポーツ選手のケガの治療まで、整形外科分野における幅広い診療を経験。「ひざ痛に悩む患者さんの力になりたい」という、整形外科医を目指した原点を忘れず、日々の診療に当たる。日本整形外科学会専門医。日本整形外科学会認定リウマチ医。日本体育協会認定スポーツドクター。