解説者のプロフィール

関口志行(せきぐち・しゆき)
●ツバサ整骨院
埼玉県川口市前川1丁目14−6
048-423-0067
ツバサ整骨院院長。柔道整復師。
埼玉県川口市で「ツバサ整骨院」を開業。痛みや不調をその場で軽減する手技療法が評判。手首の1点押しをはじめとする、独自の治療法の考案も積極的に行っている。
痛みがその場で軽減して驚いた!
長年、おおぜいの患者さんの体に触れていると、さまざまな発見があります。私はその発見から、患者さんが自分でできるセルフケアをいくつか考案しました。そのなかで、特に効果を感じているのが、「手首つかみ」です。
手首つかみは、手首を押さえながら1分ほど歩くという簡単な体操です。これを行うだけで、ひざの痛みをはじめとする関節痛が、驚くほど軽快します。
「手首つかみ」のやり方

「手首つかみ」事例
まず、最近の事例から紹介しましょう。
●Aさん(80代・女性)
Aさんは、子供のころからのX脚で、それが年を取ってから悪化しました。歩くたびに、両ひざがぶつかり、音がするほどです。そのため、ひざの痛みで歩くのがつらいと、私のところへ来院されました。
そこで、Aさんに手首つかみを教え、100歩ほど歩いてもらいました。すると、その場で痛みが軽減。驚いたAさんは、それから毎日、自宅で手首つかみを行いました。
しばらく続けると、歩く姿勢がよくなり、ひざがぶつからなくなりました。歩いてもひざが痛まなくなったため、病院で打ってもらっていた痛み止めの注射は断ったそうです。「手首つかみが痛み止めになった」と、Aさんは大喜びです。
●Bさん(70代・女性)
Bさんは、変形性ひざ関節症で両ひざの手術を受けました。しかし、術後も両ひざの痛みが強いので、困って私の治療院に来られました。
Bさんにも、施術後に手首つかみを教え、自宅で行うように勧めたところ、両ひざの痛みは約1ヵ月で消えたそうです。
このように、手首つかみを行うと、少々強い痛みでも軽くなります。来院時には杖をついていた人が、杖を忘れて帰り、あとで気づいて取りに来られたこともあります。
手首つかみをすると、痛みが取れるだけでなく、足が上がるようになります。ですから、つまずきにくくなり、歩くのも楽になります。こうして歩けるようになれば、足の血行がよくなり、ひざのはれは引き、水もたまりにくくなります。
かたい股関節を緩めて、ひざ関節の動きを回復
なぜ手首つかみがひざ痛にこんなに効くのか、実はよくわかっていません。しかし、次のようなことが推測されます。
ひざが悪い人は、ほぼ例外なく股関節がかたくなっています。股関節がかたいと、太もも前面の筋肉(大腿四頭筋)が緊張して、ひざ関節を圧迫します。そのため、ひざがうまく動かず、痛みが出てくるのです。
しかし、手首つかみを行うと、かたくなった股関節が緩みます。それによって大腿四頭筋の緊張がほぐれ、ひざ関節の動きがよくなって痛みが取れるのです。
では、なぜ手首を押さえると股関節が緩むのでしょうか。これには脳が関係しています。
西洋には、「手は第二の脳、足は第二の心臓」ということわざがあります。つまり、手(手首)を刺激することで、脳にアプローチできるのです。
手首には、手根骨という八つの小さな骨が上下2列に並んでいます。日常の生活で、例えば携帯電話の操作で指を使い過ぎたり、立つときに手首をテーブルについたりすると、この骨が持ち上がってズレてきます。わずか1mm弱のズレでも、血管や神経を圧迫する原因になり、全身に影響を及ぼすのです。
そこで、持ち上がった手根骨を正常な位置に戻すために、手首を押さえます。少し手首を反らせてグッと押さえると、正常な位置に戻りやすくなります。すると、血管や神経の圧迫が取れて脳への伝達がスムーズになり、「かたくなった関節を緩めよ」という指令が脳に届きやすくなるのです。
そのとき大事なことは、どの関節を緩めるか、脳に伝えることです。そこで、足を動かします。歩いたり足踏みをしたりして股関節を動かせば、緩める部位は股関節だと脳が認識するのです。
ですから、手首つかみでは、必ず手首を押さえながら歩くか、その場で足踏みをします。立つのが大変な人は、イスに座って足踏みをしてもかまいません。
私たち柔道整復師は、「手首がかたいと全身の関節の節々がかたくなる」ことを、体験的に知っています。手首を緩めれば股関節が緩むのは、当然のことでもあるのです。股関節が緩めば、ひざ関節も動くようになり、ひざ痛も改善します。