だしを取るのは面倒だと思っていた
「だしくらい取れないとなぁ」ここ数年、私は心のどこかでそう思っていました。
私がだしを取るのは年2回。大晦日の年越しそばと、お正月のお雑煮を作るときだけでした。
そのときはやはり「香りがいい」「おいしい!」と感動し、「今年はもっとまめにだしを取ろう」と決心します。
それに、私の中では「だしを取る人=ちゃんと暮らしている人」というイメージがあり、日常的にごく自然にだしを取る人になりたいと思っていました。
しかし、思いはあっても、どうしても続きません。
結局、年末年始以外は、顆粒だしやパックのだしを使っていました。
「私はなぜ、習慣的にだしを取れないのだろう」じっくり考えると、三つの理由が浮かび上がってきました。
①面倒!
実際の作業もですが、たまにしかだしを取らないので、そのたびにやり方を忘れて、本やインターネットで調べます。
すでにそこから面倒なのです。
「面倒だから、たまにしか取らない→たまにしか取らないから面倒」という負のスパイラルに陥っていました。
②顆粒やパックだしで、十分おいしい!
きちんと取っただしのほうがおいしいのは確かですが、顆粒やパックでも、手間のなさを思えば、十分と感じるおいしさです。
忙しい毎日のなかで、ついそちらに手がのびていました。
③どれが正しい取り方か、わからない!
だしの取り方は、料理の先生や専門家によって違いがあります。
どれがいいのか、確固とした確信を持てないまま、だしを取っていました。
それが、モチベーションを下げていました。
だしって、意外と簡単!自由でいいんだ!
そんな私が、一昨年、ついに憧れの「だし生活」を始めたのです。
きっかけは、年末に札幌の実家に帰省したとき、母が作ってくれた年越しそばが、ものすごくおいしかったことでした。
一口すすって、その味に驚愕!「このそばつゆ、何のだし?」と聞くと、「鶏ガラとあごだし」と母。
初めて聞く組み合わせです。
そもそも当時の私は、「顆粒じゃない鶏ガラってあるの? どこに売ってるの?」というレベルでした。
「鶏ガラは、スーパーで売ってるよ。それを水と一緒に鍋に入れて、ストーブにかけておいただけ」だと母は言います。
それに、最近はやっているあごだし(トビウオのだし)を合わせたことで、衝撃的な味わいのそばつゆができていたのです。
もう一つ、実家で驚いた「だし事件」がありました。
台所に大鍋があり、中をのぞくと、大量のコンブが水につかっていたのです。
母に聞くと、「水につけておくだけで、いいだしが出るから」とのこと。
そのコンブだしをお茶代わりに飲んだり、保温ボトルに入れて持ち歩いたりしているとか。
それを温めて飲んでみたところ、ものすごくおいしいのです。
コンブのうま味がたっぷり出た、極上のスープです。
私は、だしのおいしさに圧倒されるとともに、「だしって、意外と簡単では?」と思い始めました。
「コンブを水から入れて火にかけ、沸騰前に取り出し、差し水をして、カツオ節を一気に入れ……」なんてしなくても、コンブを水につけておくだけで、このおいしさなのだからと。
興味が湧いてきた私は、さまざまな料理の専門家やだしにかかわるメーカー、専門店などに取材し、いろいろな角度からだしのことを調べました。
その結果、「だしは難しくない。思っていたよりずっと自由だ」ということがわかったのです。
同時に、自分に合うだしの取り方も見えてきました。
やり方はとっても簡単。
ベースは水で出すコンブだしで、麦茶ポットに水とコンブを入れて、冷蔵庫に置くだけ。
これを単体で使うときもあれば、カツオだしなどを合わせることもあります。
カツオだしも、道具を工夫すれば、簡単に取れることがわかりました。
こういう方法なら、ストレスなくだしが取れます。
らくに取れておいしいので、顆粒やパックのだしは一切使わなくなりました。
夫も喜んでくれて、だし生活はすっかりわが家に定着。
おかげで、次のようなメリットがありました。
梅津さんお勧めの簡単だし

だし生活のメリット
①おいしい
最大のメリットは、おいしいこと。
以前は「顆粒でもOK」と思っていた私も、簡単で、しかもしっかり取れただしを味わうようになると、明らかにそのほうがおいしいので、迷いなくだしを取るようになりました。
汁もの、鍋、めん類、煮物などをはじめ、和洋中問わずどんな料理でも、だしを使うと味のグレードが確実に上がります。
②料理の時短になる
だしをしっかり取ると、後は塩やしょうゆなどをちょっと加えるだけで、とてもおいしくなります。
複雑な調理法や味付けをしなくてもおいしいので、料理の時短になります。
③塩分の摂取量が減った
だし生活を始めてから、外食の味付けを濃く感じるようになりました。これは夫も同じです。
だしのうま味があるので、自然に少ない塩分で満足できるようになってきたようです。
夫も私も血圧は高くありませんが、将来を考えると、減塩するに越したことはありません。
減塩には、だし生活が絶対にお勧めです。
④太りにくくなった
だし生活を続けていると、明らかに以前より太りにくくなりました。
だしのきいたおいしい食事だと、少量で満足できるからかもしれません。
また、私は、だしがらのコンブを、刻んでサラダに入れるなど、無理のない範囲で食べるようにしています。
食物繊維たっぷりのコンブを食べることで、太りにくくなっている面もありそうです。
⑤精神的によい
カツオだしなどを取ると、香りで心が癒されます。
また、だし生活を送ることで「ちゃんとしたものを食べている」という実感が持てるのも、精神的にとてもいいと思います。
このほか、私はだし生活を始めて、花粉症が出なくなりました。
花粉シーズンに、前はひどかった目のかゆみや鼻水が、ピタッと出なくなったのです。
どういうメカニズムかわかりませんが、もしかすると添加物の摂取が減ったことや、だしの成分と関係あるのかもしれません。
以上のように、だし生活にはメリットがたくさんあります。
そして、だし生活を続けるいちばんのコツは、「気らくに、自分のやりやすい方法で」だしを取ることです。
よく「だしを取るとき、カツオ節は絞ってはいけない」と言われますが、私は絞っただしと絞らないだしを比べ、前者のほうが濃くて好きだし、もったいないので絞っています。
また、水で取ったコンブだしにカツオだしを加えれば、簡単に合わせだしが作れます。
「コンブを水につけて火にかけて、カツオ節を……」なんて手間をかけなくても、十分おいしい合わせだしが作れます。
プロの料理ではなく、自分たちが食べる家庭料理ですから、好みでアレンジしていいのです。
自分にとって無理のないやり方で、だしのおいしさを存分に味わえるようになると、だし生活を続けるモチベーションは、確実に上がります。
皆さんも、だし生活始めてみませんか?
解説者のプロフィール

梅津有希子
1976年北海道生まれ。雑誌編集者を経て2005年に独立。現在、女性向けのwebや雑誌、書籍を中心に、食、ペット、暮らし、発信力などのテーマで執筆や講演を精力的に展開。著書に、ドラマ化もされた『終電ごはん』(幻冬舎)、『吾輩は看板猫である』シリーズ(文藝春秋)など。近著の『だし生活、はじめました。』(祥伝社)が話題。