大きく動かさなければ関節は徐々にかたくなる
ひざ痛を招く要因は、ケガを除けば主に三つあります。
❶肥満、❷姿勢の悪さ、❸動かし不足、この三つです。
肥満になると、より大きな加重がひざの関節にかかることになります。体重が多い人ほど、靴底が早く減ります。それと同じ現象がひざの軟骨(クッション)にも起こります。軟骨がすり減った結果、痛みが生じるのが変形性ひざ関節症です。
第二が姿勢です。いい姿勢は、背を高く見せるイメージで、少し体が伸び上がって、ひざ関節にかかる負担が少なくなります。一方、悪い姿勢では体幹(胴体部分)が下がり、関節への負担が増えます。
第三が、動かし不足です。「運動不足」ではなく、「動かし不足」であることに注目してください。
日常生活では、意識して動かさない限り、関節を大きく動かすことがありません。漠然と歩いたり、走ったりしても、関節を大きくは動かしていません。
ふだん関節を大きく動かさないと、徐々に関節がかたくなります。それが、ひざ関節の状態を悪くする要因になるのです。
痛みの主な原因が肥満や姿勢の悪さにある人が、減量したり、姿勢をよくしたりするのは、当然のことです。ここでは、肥満や姿勢などに関係なく、ひざ痛に悩む人全員にお勧めしたい体操を紹介します。
それが、ひざの動かし不足を解消する「ひざの曲げ伸ばし」です(図解参照)。
「ひざの曲げ伸ばし」のやり方

この運動は立っていても座っていても行えますが、まず立って行う場合をお話しします。
片足で立てない人やふらつく人は、どこかにつかまって行ってください。つかまらないで行えば、バランス訓練にもなるのでさらによいのですが、無理はしないでください。
片足立ちをして、浮いた足のひざを曲げながら太ももを上げ、次にひざを前方にゆっくり完全に伸ばします。このとき足首は手前に反らすようにしてください。完全に伸ばしたら、最初の位置に戻し、伸ばすことをくり返します。
完全に伸びないひざはO脚になりますから、多少痛くても伸ばしきるようにしてください。
イスに座って行う場合も、片足を上げ足首を反らして、ひざを完全に伸ばします。足を床に平行にすれば、太もも前面の筋肉(大腿四頭筋)の強化につながります。
座って行う場合も、片足ずつ行いましょう。両足同時に行うと腰を痛めてしまうからです。
いずれも最初は、5回くらいから始めてください。片方の足が終わったら、もう片方の足も同様に行いましょう。
ひざの曲げ伸ばしはいつ行ってもかまいません。私は、朝晩、歯磨きをしながら行っています。楽に5回できたなら、10回、20回と1日に行う回数を少しずつ増やしましょう。多くやるほど有効です。
ウォーキングの前後に行うと効果的!
では、なぜ、ひざの曲げ伸ばしがひざにいいのでしょうか。
ひざを大きく動かせば動かすほど、ヒアルロン酸という潤滑油が出てきます。涙や唾液が目や口を動かすほど、分泌量が増えるのと同じです。大きく動かすことで、上下の軟骨がこすれ合いますが、関節に体重がかかっていないため、その刺激は軟骨にとって優しい摩擦になります。この摩擦で分泌された潤滑油が軟骨に吸収されるので、ひざの曲げ伸ばしを続けると、軟骨の弾力性の維持へとつながっていくのです。
また、ひざに水がたまっている人の場合、ひざを完全に伸ばすことで水をしぼり出す効果もあります。継続すれば、水が減り、水がたまりにくくなります。
ひざの曲げ伸ばしで、ひざ痛が楽になった人や、水が減った人は多数いらっしゃいます。
例えば、50代の女性は、薬を服用したり、電気治療に通ったりしたものの、ひざ痛がよくならないと来院。ひざに水がたまり、痛みがひどかったので、最初は大きく動かさずに、ひざを完全に伸ばす動きだけをくり返してもらいました。
すると、まっすぐ伸ばせなかったひざがだんだん伸ばせるようになり、痛みが減ってきました。その後、ひざの曲げ伸ばしに移行し、悪化を予防できています。
ひざにたまった水が少なめ(10ml程度)の人は、この運動を1ヵ月も続けると、水がたまりにくくなります。
もちろん、痛みの強い人には薬や注射も必要になります。
ひざの曲げ伸ばしは、ひざに体重がかからないため、痛みがあっても行えます。予防効果もありますから、痛みのない人もぜひ試してください。
ウォーキングとの併用もお勧めです。ウォーキングには、寝たきり予防の筋トレ・骨トレ効果もありますが、やり過ぎれば自分の体重で軟骨をすり減らす恐れがあります。
ですから、ウォーキングを行う場合、その前後にひざの曲げ伸ばしを行ってください。体重でダメージを受ける軟骨に多くの潤滑油を吸い込ませることができ、より安全で効率的なひざの強化が可能になるでしょう。
解説者のプロフィール

伊藤邦成(いとう・くになり)
いとう整形外科院長。
1948年、静岡県生まれ。
74年、東京医科大学卒業。
東京警察病院整形外科に勤務後、 88年、いとう整形外科開院。
自らの腰痛を克服するために、研究した腰痛体操を患者さんに指導し好評を得ている。
著書に『整形外科医が教える元気な体の作り方』(幻冬舎メディアコンサルティング)など。
●いとう整形外科
東京都世田谷区三軒茶屋1-39-5-101
TEL 03-3418-0203
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