階段でひざに力が入らずガクッと体が傾いて怖い
私は20代のころから、座禅を組んで精神統一するのを日課としてきました。また、年に一度、京都で座禅を組むのを楽しみにしながら、日々の仕事に励んでいました。
ところが10年前、京都で座禅を組んでいたときに、突然右ひざが固まって動かなくなってしまったのです。曲げることも伸ばすこともできず、組んだ足を無理に動かそうとすると、ひざに激痛が走りました。「とにかく足を外そう」と、汗をかきながら試みましたが、少しでも動かすと痛いので、かなりの時間を要しました。
そのまま、痛む右足を引きずりながら薬局に行き、サポーターと湿布薬を購入して、ひざを固定しました。なんとか東京まで帰ってきたものの、突然のトラブルで京都での座禅が台無しになってしまい、ほんとうに残念でした。
東京に戻り、すぐ整形外科を受診すると、「半月板を損傷している」といわれました。内視鏡手術を勧められましたが、そうすると1週間入院しなければなりません。仕事を休めないので手術は受けず、一生痛みとつきあう覚悟をしたのです。
それからは、ひざが固まらないように、曲げ伸ばしの際には常に注意を払ってきました。また、ひざに負担をかけないように意識して立ち、ひざをぶつけないように気をつけました。
それでも、たまにひざが固まることがありましたし、階段を下りるときはひざに力が入らず、いつもガクッと体が傾いて怖い思いをしていました。
そんな生活が続き、「一生このままでは困る」という思いがわいてきました。ひざの曲げ伸ばしができないと、趣味の園芸も満足にできません。正座ができないので、座禅はおろか、日課の精神統一さえままならないからです。
O脚にもならずさっさと歩ける!
転機が訪れたのは、今から4年前でした。知人から、東京女子医科大学附属病院の整形外科を勧められたのです。
受診して意外だったのは、手術を勧められず、ヒアルロン酸注射を打つ治療法とともに、自分で行うトレーニングを指導されたことでした。トレーニングといっても、あおむけになってひざを伸ばし、足を上下させるだけです(図参照)。
ひざ伸ばし足上げのやり方

簡単なトレーニングだが、効果は確かにある
自分でいうのもなんですが、熱心に続けています。私は左右の足を50回ずつ上下させて1セットとしますが、5分もかかりません。
朝、起きてお風呂に入ってから1セット、昼は仕事場でイスに座って1セット、夜も入浴後に1セット行います。
簡単なトレーニングですが、効果は確かにあると思います。以前に比べてひざが固まることが少なくなりました。ゆっくりひざを曲げれば、正座もできます。座禅は組めなくなりましたが、精神統一は正座で行っています。
年齢を考えると、何もしなければ筋力がどんどん衰えて、ひざ痛は悪化するでしょう。それを防ぐためにも、筋肉を強化するトレーニングが必要だと信じて、毎日熱心に続けています。年齢と競争しているようなものです。
ひざの調子がよくないことは、周囲の人たちに話していません。歩くときは背すじを伸ばし、ひざが曲がらないように気をつけて、さっさと足を運びます。ですから、私のひざが悪いことを知っている人は、ほとんどいません。これも毎日、ひざを伸ばして足を上下するトレーニングをしているからでしょう。
私は毎朝、鏡で足の形を見ることにしています。両ひざの内側がしっかりついて、O脚になっていないことを確認し、「今日も大丈夫」と安心するのです。
運動は嫌いですが、習慣にしてしまえば意外と苦になりません。なにより、効果を実感できるので、やる気になります。ひざの健康のために、これからもトレーニングを続けていくつもりです。
セルフケアで半月板が再生した好例(東京女子医科大学東医療センター・整形外科部長 千葉純司)
森下さんの右ひざの半月板は、加齢によって水分量が減っていました。そのため、軽微な刺激で損傷して組織がめくれることがあります。それが、ひざ関節に引っかかったり、はさまったりすると、ひざが固まって動かなくなる「ロッキング」という現象が起こります。
半月板は血管に乏しく、外側3分の1にしか血管がないため、内側を損傷すると元に戻りません。森下さんの場合、幸い外側の損傷で軽度だったので、半月板の接着効果があるといわれているヒアルロン酸注射に加え、セルフケアとして、「ひざ伸ばし足上げ」を勧めました。その結果、血流と代謝が改善して半月板が再生し、ロッキングが起こらなくなったのです。
ひざ伸ばし足上げは、大腿四頭筋を強化するだけでなく、関節包を柔軟にして、痛みを軽減します。