体を〈快〉の方向へ動かすだけで元気になる!
「寝床で足をモゾモゾする」だけで病気や痛みが快方に向かう。
こう言うと「えっ」と驚くかたもいると思います。
しかし、これは実は「操体」という健康法の基本的な動きの1つです。
では、操体とはどういうものなのでしょうか。
操体は、故・橋本敬三医師が提唱した、全身のバランスを整え、健康に生きるための法則です。
橋本先生は医師として鍼灸治療や民間療法の研究にも力を注ぐ中で、ある法則に気づきました。
それは「どんな治療法でも、患者さんの状態が〈快〉か〈不快〉かが効果の判断基準になる」ということです。
言い換えれば、痛みや不調を改善するには、体が「快」と感じる状態に導けばよいということです。
それが、操体の考え方の根本です。
橋本先生は息をすること、食べること、動くこと、想うこと、これらを体が「快」と感じるように行うことが、健康づくりの基本であると説きました。
その基本課題に「息・食・動・想」があります。
この4つは、他人に肩代わりしてもらうことはできません。
つまり、操体は「自分で自分の体を整える健康法」というわけです。
「快」か「不快」かを教えてくれるのは体です。
体に問いかけ、自分で自分の体が望む方向に整える。
そうすれば、お金もかからず、いつでも、手っとり早く元気になれます。
「寝床で足をモゾモゾする」動きは、息・食・動・想の「動」にあたる部分となるわけです。
体があるべき形になれば痛みは自然に抜ける
操体で指標となるのは、「動かしたときに感じる不快」です。
ですから、まず体を動かしてみて、不快の有無をチェックすることから始めます。
これを「動診」と言います。
「不快」は、がんばったり欲張ったり無理をしたりして、体のバランスがくずれることによって起こります。
誰でもわかる「不快」は痛みですが、それだけではありません。
だるさ、重さ、突っ張り感、そしてなんとなくある違和感や動かしにくさもすべて「不快」ととらえます。
ここで大事なことは、「どこに不快があるか」ではなく、「どんな状態のときに不快があるか」です。
体を少しずつ動かすと、どこかで「不快」を感じます。
これは、「それ以上その方向に動かすと体が壊れますよ」という信号です。
私が患者さんを動診するときは、不快の程度を0~5で評価します。
そして、それが0に近づくことを「快方」、5に近づくことを「壊方」と呼んでいます。
不快が増す方向(壊方)に動かすと体が壊れますから、操体では不快が減る方向(快方)に動かすことが基本になります。
曲げると不快を感じるならそこが伸びる方向、右に動かすと不快を感じるなら反対方向の左に動かすという具合です(下図を参照)。
ここでポイントになるのは、どこまで動かすかです。
「操体」の基本

「不快」を感じるところから徐々に戻し、「不快」の程度が0になったら、そこが「快」と感じるかもしれません。
でも、その位置では一見よくなったように思えても、体のひずみは改善していません。
ひずみを取るには、そこからもう少し逆方向に動かす必要があるのです。
ただし、行きすぎてもいけません。
新たな「不快」が現れない程度に、動かす範囲を加減します。
体を「不快」とは逆の方向へ動かしたら、今度はその動きに合わせて、自然に全身を連動させて、どこにも違和感のない体勢をめざします。
操体ではこれを「連動性の法則」と言って、体は一部を動かすと、必ず全体が連なって動くようにできています。
西洋医学では全身を部分に分けて診ますが、体はひとつながりです。
どこか1カ所にひずみがあれば、それがほかにも影響します。
ひずみを治すときも、1カ所を動かしたら体のあらゆる部分を自然に連動させて、全身のバランスを整えていかなくてはならないのです。
頭はどの位置にあるのが「快」か、そうすると胸は?腰は?手は?足は?と、1ミリずつ身もだえするような感覚で動いて、体が望む位置を探っていきましょう。
頭・胸・腰が三色団子のように1本の串に刺さった状態をイメージし、丹田を意識して、地球の安定感を感じながら調整すると整いやすいです。
バランスが整ったら、数秒間、心地よさを味わって脱力します。
そして、先ほど「不快」を感じた方向へもう一度動かして、変化を確かめてみましょう。
全身のバランスが整った状態をうまくつくれると、痛みなどの「不快」は一瞬にして消えることもあります。
これが自然治癒力です。
体が本来あるべき形に整えば、痛みが自然に抜けてしまうのです。
もちろん全員が全員、「不快」がすぐ0になるとは限りません。
でも、4も感じていた「不快」が2になる。
それだけでもまずはじゅうぶんなのです。
体のバランスが整っていけば、「不快」は自然と0に近づいていくはずです。
肩がスッと上がりひざの痛みも忘れた!

上図は91歳の女性・Nさんに施術している写真です。
Nさんは右ひざの強い痛みを訴えていました。
また、左肩にも痛みがあり、腕が上がらない状態でした。
前述した動診で痛みを調べると、右ひざに4、左肩にも4の「不快」がありました。
そこで、どの状態だと痛みが出るかを調べ、体が楽に感じるほうに動かし、全身がバランスのいい状態になるよう、ご自身で少しずつ動いて調整してもらいました。
すると、左肩の痛みが取れ、さっきより高い位置まで腕が上がるようになりました。
同時に、右ひざの痛みも消えてなくなりました。
左肩の痛みが取れると、右ひざも改善する。
これこそが体が1つにつながっている証です。
「ひざの痛みは?」と聞くと、Nさんは「あ、忘れてた!」と驚きました。
4もあった「不快」が忘れる状態、つまり0まで回復したわけです。
操体はまったく難しいものではありません。
身もだえるようにモゾモゾ動くだけなので、91歳でひざの悪いかたでも負担なく行えます。
今回紹介する「寝床で足をモゾモゾする」動きは、そのほんの一例です。
しかし、基本的に操体は、私が「この動作をやりなさい」と指示するものではありません。
「不快」を感じる動きは、人によって違うからです。
「寝床で足をモゾモゾする」動きを身に着けたら、ぜひご自身の体に合わせて、いろんな動きで応用してみてください。
解説者のプロフィール

北村翰男(きたむら・ふみお)
1968年、東京薬科大学卒業後、薬剤師として家業の薬局に勤務。
1978年、「操体」の考案者である橋本敬三医師の診療所を訪問。
1979年頃から講習会で操体を導入し始め、これが「奈良操体の会」の前身となる。
現在も「薬を売ることを優先しない」薬局を経営しながら、健康相談、講習会などのかたちで操体を広めている。
●奈良操体の会
http://nara-soutai.net/