解説者のプロフィール
互いが平等に支え合ってこそ夫婦間の安定した関係が成り立つ
以前、「人」という字は1画めと2画めが支え合ってできている、とお話をしたことがあります。人は独りでは生きていけません。
ましてや夫婦であれば、互いに支え合ってこそ、しっかり立っていられるというものです。もし、片方がもう片方に寄りかかり過ぎてしまうと、バランスがくずれます。
団塊の世代あたりまでは、「男が外で稼ぎ、女は家を守る」といった概念が、一般にまかりとおっていました。この考え方は文字どおりにとれば、夫も妻もそれぞれの務めがあるといった意味で、平等です。
ところが、経済成長と女性の社会進出に伴い、このいい回しは男尊女卑的なニュアンスを帯びてきます。外で稼いでくる夫のほうが偉い。妻が家にいられるのは、夫が稼いでくるおかげ。専業主婦はいいご身分だ、といったぐあいです。つまり、妻が夫に寄りかかり過ぎているというわけです。
しかし、無論のこと、夫が外で安心して仕事ができるのは、妻が家庭を切り盛りし、子供の世話を一手に引き受けているおかげです。一方で、妻が家のこまごましたことに専念できるのは、夫が外で仕事をして、稼いできてくれるおかげです。お互いが平等に支え合っているからこそ、安定した関係性が成り立っているのです。
夫が認識をそうと改めないまま、定年退職の日を迎えてしまうと、さあ大変。
一日中やることがなく、家事もできずに、家でゴロゴロしている。ひどい場合は妻にベッタリとひっつき、なにかと干渉してきます。これまで自由裁量を任されてきた妻にしてみれば、我慢なりません。そうしたわけで、熟年離婚を切り出すのは、たいてい女性の側です。
個人的には、それまで「風呂、メシ、寝る」しかいわなかったような夫なら、妻にしっぺ返しを食らっても当然だと思います。妻は、家政婦ではありません。残りの人生くらい自由に生きたい、と願う気持ちは、理解できます。
しかし妻は妻で、夫が稼がなくなったらポイ捨てというのはいただけません。長年会社勤めをしてきた夫に対し感謝の念もなく、じゃま者扱いするのは恩知らずです。
恋愛の消費期限は持って3年! でも…夫婦間の賞味期限は長い!
高齢になるほど、心身ともに、支え合いが必要なはず。年を重ねた末に離婚してしまっては、互いにとって、なんのメリットもありません。熟年離婚を避けるには、くり返し述べてきたように、夫婦間でも一定の距離を保つことです。あまりに密な関係は、自由を奪います。「利害が一致するから共同生活をしている」くらいのつもりで、ドライに暮らすのがちょうどいいのです。
恋人どうしのホットな感情は、持って3年。恋愛の消費期限は短いものです。純愛で知られるロミオとジュリエットも、放っておけば、3年ほどで別れたかもしれません。
ただ、「時間の経過により風味は損なっても、まだ大丈夫」という期間、つまり賞味期限は、ずっと長い。恋愛感情はなくなっても、家族としての愛に変化を遂げ、長く連れ添うことができるのが、夫婦なのです。
私は妻のことを、同じ境遇をともにくぐり抜けてきた「戦友」だと思っています。妻には、不遇の時代も支えてもらいました。感謝してもしきれないほどです。
しかしあるとき、妻へのメールに「人生最大の友人だ」と書いたら、ひどく機嫌を損ねてしまいました。自分では最上の賛辞のつもりだったのですが、どうも通じない。
こうした「なぜ妻に(または夫に)理解してもらえないんだろう」といった経験は、皆様もお持ちではないでしょうか。
私たちの大脳は、左脳と右脳に分かれており、左脳と右脳とをつなぐ経路を、脳梁といいます。ここの太さが男女で異なるという研究報告があることから、男性と女性では脳の構造が違うとされてきました。ただ、近年はこれを否定する説もあります。
事の真偽はさておき、男性脳・女性脳といった言葉が独り歩きしているのは、実際に多くの人が「男女により思考や言動の傾向が異なる」と感じているからでしょう。
男性は理論型なので、よけいな経緯は省いてよし。話の結論を聞きたがります。また、空間把握能力に優れている場合が多いようです。男性のほうが地図を見るのが得意といわれるのはそのためです。反面、感情を読み取るのは比較的苦手。私が妻を怒らせたのも、そう考えれば納得がいきます。
一方、女性は共感型。相手に共感を求めたいので、結論に至るまでの話が長くなります。感情重視で、コミュニケーションを大切にし、人間関係を良好に保つことに意義を見い出すのです。それが高じると、感情的になり過ぎるきらいがあります。
一般的に挙げられるだけでも、これだけの差異が、傾向として見受けられるのです。話し合いでは解決せず、どうしても意見が合わないときは、「男女の脳の違い」と割り切ってしまうのも、一つの手かもしれません。夫婦げんかになりそうなとき、ぜひ思い出してください。
上山博康
禎心会脳疾患研究所所長・脳神経外科医師。
社会医療法人禎心会脳疾患研究所所長。1948年、青森県生まれ。日本脳神経外科学会専門医。73年、北海道大学医学部卒業。秋田県立脳血管研究センター、北大医学部脳神経外科講師などを経て、92年に旭川赤十字病院脳神経外科部長に就任。脳血管障害、脳動脈瘤などの手術件数はおよそ40年間で2万件を超え、全国屈指の手技と実績を持つ。2012年4月から現職。手術治療と並行し、禎心会病院脳卒中センター内「上山博康脳神経外科塾」の総帥として、若手脳神経外科医の育成に努める。テレビ東京『主治医が見つかる診療所』(レギュラー)、NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』ほか、テレビ出演多数。