手術が検討されるのは頻尿や尿漏れ、直腸障害による便秘など、日常生活への支障があるとき
頸椎症が重症になり、日常生活への支障が大きくなってくると、手術が検討されるようになります。
一般に、頸椎症性神経根症や頸椎椎間板ヘルニアの神経根症タイプでは、手術が行れることはあまりありません。前項までに述べたさまざまな保存療法(手術以外の療法)で、ある程度、長い期間がかかるとしても、回復が図れる場合が多いからです。
しかし、腕の痛みやしびれが非常に強くて、保存療法で改善できず、日常生活や仕事に大きな支障があるときや、急激に腕や手の筋力が衰えてきたときなどは、手術が検討されることがあります。
この場合の手術は、多くの場合、首の前側から切開し、神経根を圧迫している骨のトゲや突出した椎間板などを除去して神経の圧迫を除いたのち、上下の頸椎を固定する「頸椎前方除圧固定術」という方法が用いられます。
病状によっては、首の後ろ側から切開して、同様に神経の圧迫を取り除く「頸椎後方拡大術」が行われることもあります。頸椎後方拡大術は、脊柱管の後ろ側にある椎弓を広げたり、削り取ったりする手術です。
頸椎症性脊髄症や椎間板ヘルニアの脊髄症タイプでは、腕や手の症状、下肢や膀胱・直腸(肛門の内側に位置する腸の最後の部分)の症状などによって、日常生活に大きな支障が出てきた時点で手術が検討されます。具体的には、以下のような症状が出てきたときです。
◆腕と手の動きが悪くなり、細かい字を書いたり、はしやフォーク・ナイフなどを使ったり、服のボタンをとめたりする動き(巧緻運動)ができなくなった。
◆足に力が入らない、ころびやすい、ふらつくなど、歩行に支障が出てきた。
◆頻尿や尿漏れ、尿がなかなか出ないなどの排尿障害、あるいは直腸障害による便秘がひどくなって日常生活への支障が大きい。
この場合の手術は、病状に応じて、頸椎前方除圧固定術が用いられたり、頸椎後方拡大術が用いられたりします。一般に、対象となる圧迫部分が一つか二つの椎間(頸椎の間)であれば前者の術式が、三つ以上の椎間に及ぶ場合は後者の術式が選ばれることが多くなります。
ある程度の時間をかけても、じっくり保存療法を行っていけば回復が期待できる頸椎症性神経根症や椎間板ヘルニアの神経根症タイプと違って、頸椎症性脊髄症や椎間板ヘルニアの脊髄症タイプの場合は、手術をするタイミングが遅くなりすぎると、術後の回復が悪くなる場合があります。そのため、整形外科ではタイミングを逃さないように手術の検討に入ります。
ただし、実際のところ、本当に手術をするかどうかは、しばしば医師によって意見が大きく分かれます。それはなぜでしょうか。
手術を絶対にしなければいけない状態を黒、手術がまったく必要のない状態を白とします。黒と白の間のグレーの状態、つまり、手術を行ってもよいけれど、必ずしも必要ではないという医学的状態がとても多いのです。黒と白の間のグレーでは、ある医師は手術をすすめ、別の医師は手術はまだ必要ないと話すことになります。困ったことに、どちらも医学的に正しい判断です。
手術の話が出たときに、まず患者さんがすべきことは、自分が黒なのかグレーなのかをきちんと医師にたずね、把握することです。もしグレーなら、よく医師と話し合ったうえで、手術をするかどうかを自分で決めると後悔が少ないでしょう。
とはいえ、基本的には、手術は「最後の手段」です。タイミングを逃してはいけませんが、それまでの間にできることはたくさんあります。
可能な限り、セルフケアや生活上の工夫に取り組んだり、場合によってはこのあとに述べるカイロプラクティック治療を受けたりしていただきたいと思います。
くり返しになりますが、手術を受けることになったら、セルフケアや生活上の工夫が必要なくなるわけではありません。手術を要するほどの頸椎症なら、余計にそれらが大切になります。再手術を防ぐ意味でも、ぜひセルフケアなどを行ってください。
竹谷内康修
竹谷内医院カイロプラクティックセンター院長。整形外科医・カイロプラクター。東京都生まれ。東京慈恵会医科大学卒業後、福島県立医科大学整形外科へ入局。3年間整形外科診療を行う。その後、米国ナショナル健康科学大学へ留学し、カイロプラクティックを学ぶ。同大学を首席で卒業後、都内にカイロプラクティックを主体とした手技療法専門のクリニックを開設。腰痛、腰部脊柱管狭窄症、肩こり、頭痛、首の痛み、関節痛などの治療に取り組む。
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