首の痛みを起こす病気は「ひとつながり」

そもそも首の痛みは、どんな原因から起こるのでしょうか。
外傷や腫瘍などの特殊な病気を別にすると、首の痛みを起こす原因は、広い意味の「頸椎症」にほぼ限られます。ただし、頸椎症という言葉の使われ方には幅があって、広い意味では頸椎とその周囲の異常や症状の全般を指します。狭い意味では、主に加齢に伴う頸椎の変形や変性を指します。
頸椎は重い頭を支えているために、加齢とともに変化が起こりやすい部分です。たとえば、背骨の主要部分をなす椎体や椎骨をつないでいる小さな関節に変形が起こったり、骨棘と呼ばれるトゲができたり、頸椎をつないでいる靱帯が肥厚(分厚くなること)したり、椎骨の間にある椎間板が薄くなったりします。加齢とともに起こるこうした変化を、医学的には「退行変性」といいます。
退行変性は、加齢によるものではありますが、たとえば姿勢が悪くて頸椎に大きな負荷がかかっていると、よりいっそう早く進行します。ですから、「年のせいだからしようがない」というわけではなく、できる対策はいろいろあるのです。
「頸椎症」については、このように広い意味や狭い意味があってちょっとややこしいのですが、本文の内容をわかっていただくうえで重要なキーワードですから、次のように覚えておいてください。
「広い意味の頸椎症」は、首の骨とその周囲も含んだ異常全般を指す言葉です。
「狭い意味の頸椎症」は、首の骨の主に加齢に伴う変化(退行変性)で起こる病気を指します。
なお、頸椎症は「頸部脊椎症」と呼ばれることもあります。また、加齢に伴う頸椎の変形が大きい場合は、頸椎症をとくに「変形性頸椎症」と呼ぶこともあります。
本文ではここから先、とくに断りなく「頸椎症」という場合は、広い意味の頸椎症を指すことにします。
広い意味の頸椎症には、数種の病気が含まれます。「頸椎症」というと、言葉の響きとして重症の病気のように感じられるかもしれませんが、そのなかには、ごく軽症のものから重症のものまですべて含まれます。
それらは、別々の名前がついていますが、実態はひとつながりになっています。つまり、それぞれまったく別のしくみで起こるものではなく、お互いにつながっており、悪化すると次の段階の病気が起こっていくのです。
ところで、「連続体」を意味する「スペクトラム」という言葉があります。たとえば、虹の色は七色あるとされますが、クッキリと七つに別れているわけではなく、赤から徐々に橙をへて黄色に変わり、さらに緑、青と、中間色をはさみながら連続的に変わっていきます。このようにつながりながら変化していくのがスペクトラムで、病気にも連続的に変わっていくものがたくさんあります。
ここで連続性のある病気の例を考えてみましょう。コレステロールや中性脂肪が過剰な脂質異常症(高脂血症)は、長い期間に及ぶと、心臓の血管を細くして、やがて狭心症(心臓の血液が不足して起こる病気)を引き起こすことがあります。狭心症がさらに悪化すると、血管が完全につまり、心筋梗塞(心臓の血管がつまって起こる病気)になります。狭心症も心筋梗塞も、脂質異常症をもとにした同系統の血管の病気で、連続的に変化する病気のスペクトラムの一つといえます。
首の痛みを起こす病気は、軽症から重症まで別々の病名がついてはいますが、それはいわば「頸椎症スペクトラム」というべきもので、基本的には同じメカニズムから生じているのです。
その最初の段階は、実はたいへん多くの人が経験している身近な症状です。
なんだと思いますか。
それは「肩こり」です。
重い頸椎症になると、医学的な治療が必要になってきます。
しかし、そこに至る前の首や肩こり、あるいは首の軽い痛みや腕の軽いしびれを感じ始めたくらいの段階であれば、セルフケアでも改善が可能です。
次の記事で「首らく伸ばし」をご紹介しましょう。
解説者のプロフィール

竹谷内康修(たけやち・やすのぶ)
竹谷内医院院長。
東京慈恵会医科大学医学部医学科卒後、福島県立医科大学整形外科学講座へ入局。
福島県立医大附属病院等で整形外科診療に携わった後、米国へ留学。
ナショナル健康科学大学を卒業し、Doctor of Chiropracticの称号を取得。
2007年、東京駅の近くにカイロプラクティックの専門クリニックを開設。
腰痛、肩こり、頭痛、関節痛、手足のしびれなどの治療に取り組む。
日本整形外科学会会員、日本カイロプラクターズ協会(JAC)会員、日本統合医療学会(IMJ)会員。
●竹谷内医院
東京都中央区日本橋3-1-4日本橋さくらビル8階
TEL 03-5876-5987
http://takeyachi-chiro.com/