「どんな体勢も痛い」「痛みが増す」は要注意
現在、日本では約2800万人もの人が、腰痛に苦しんでいるといわれています。
なぜ、それほど多くの人が腰痛を患っているのでしょうか。
腰はその名が示すとおり、体の要です。
上半身を支えるのはもちろんのこと、体を動かすときの中心部になります。
腰椎(背骨の腰の部分)は、体を曲げたり、伸ばしたり、ひねったりする動きの中心となると同時に、骨の中を走る神経組織を守る働きも担っています。
一方、頸椎(背骨の首の部分)が支えているのは頭だけ、ひざの骨は座っているときなどには休むことができます。
その点、腰椎には、寝ているとき以外、常に負荷がかかっているのです。
故障することが多いのは、しかたないのかもしれません。
ひと口に腰痛といっても、原因も症状もさまざまです。
大きく分けると、明らかな原因がわかる腰痛(特異的腰痛)と、原因が一つに特定できない腰痛(非特異的腰痛)になります。
実際には、原因をはっきり一つに特定できるケースは少なく、全体の15%くらいです。
つまり、腰痛のうち8割以上は、「悪い病気などが原因ではないとはいえるが、原因を一つに特定できない」のです。
特異的腰痛には、下肢に痛みやしびれを伴う椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、骨折やガン、感染症などがあります。
放置すると、痛みや炎症が広がったり、マヒが起こったりして生活に支障が出るので、速やかに治療を受けることが必要です。
一方、ギックリ腰などの非特異的腰痛は、重い病気や障害が原因ではないので、焦って病院に行く必要はありません。
生活習慣の改善などで、自分で治せる腰痛と考えていいでしょう。
では、特異的腰痛なのか、非特異的腰痛なのか、どのように見極めたらいいのでしょうか。
非特異的腰痛の場合、「痛たたっ」と感じたときから、1週間以内に改善する人が約5割、3週間でほとんどの人が治ってしまいます。
このように、日に日に痛みが緩和されていくのがわかり、動いているときは痛みを感じるものの休めば消える、という場合は、セルフケアで改善できる非特異的腰痛といえます。
しかし、「どんな体勢を取っても痛い」「痛くて一睡もできなかった」「翌日になったら痛みが増した」という場合は、病気や障害が原因となっていることが考えられます。
痛みの原因が腰椎以外のケースもありますが、まずは整形外科を受診することをお勧めします。
整形外科の医師は、ガンや動脈の狭窄、子宮内膜症などの婦人科系疾患などが、腰痛を起こすことを知っています。
ですから、それらの病気が疑われる場合は、速やかにその専門科を紹介してくれます。
つまり、腰痛で整形外科に行き、「異常ありません」といわれたら、「悪い病気じゃない」と喜んでいいのです。
「痛いのに異常がないなんておかしい。何か見落としがあるのでは」などと、不安になったり、疑心暗鬼になったりするのは、痛みの増幅につながります。
異常なしと診断されたら、3ヵ月間セルフケアで様子を見てください。
それでも、痛みが変わらない、もしくは強くなったら、再度整形外科を受診しましょう。
背骨と骨盤の構造

自分で治すという意識が自己治癒力を上げる!
私は、非特異的腰痛の患者さんに、「運動で腰痛を治すこと」をお勧めしています。
痛いからといって安静を続けると、筋肉がかたくなるので、逆に治りが遅くなったり、ギックリ腰を誘発したりするのです。
運動の種類は問いません。
体の動かし方によって、腰痛の改善の度合いを調べた論文がありますが、結果は「どれも同じ」でした。
「何をしたらいいか、わからない」というかたには、ウォーキングを勧めます。
適正な速度や時間は、人それぞれですが、目安は、終了後に心地よい疲労感があり、翌日疲れが残らない程度。
「楽しかった。明日もやろう!」と思えるくらいが、適正運動量です。
ギックリ腰を起こしたときも、無理に体操をする必要はありませんが、日常生活を制限するのは好ましくありません。
全身の血流を良好な状態に保ち、筋肉を柔軟にしておくことが、治癒への早道です。
運動の利点としては、能動的に行動を起こすことで、「治してもらう」ではなく「自分で治す」意識を持てるということもあります。
人間が本来持っている自己治癒力が、上がっていく可能性があるのです。
実際、能動的に運動をしたほうが、痛みが軽くなるという研究データもあります。
別記事では、いろいろな体操やセルフケアの方法が紹介されています。
整形外科で診てもらい、異常がないと診断されたら、ぜひご自身が楽しめる運動を継続して実践してください。