自らの闘病体験を通して「母趾球歩き」という歩き方を考案した

ひざの痛みはもちろん足首の痛みも消失
私は、自らの闘病体験を通して「母趾球歩き」という歩き方を考案しました。そして、この歩き方に、30代半ば以上の女性、そして40代以上の男性に見られる、ひざの内側が痛む関節症を直す効果があることを確認しました。
母趾球というのは、左右の足の裏にある、親指側の丸い膨らみの部分です(下図参照)。私の体験を交えながら、母趾球歩きについて説明していきましょう。
平成19年の6月、私は頭部を支えている首の骨(頸椎)の手術を受けました。その手術は、左のふくらはぎから腓骨という骨の一部を切り取り、その骨を使って首の骨を固定するという大がかりなものでした。
私は糖尿病なので、血糖値をコントロールするためにウォーキングを日課にしています。平日は1日1時間以上、休日には3時間以上歩いており、手術直後からそれを再開しました。
そのとき悩まされたのが、術後から続いていた左足首の痛みでした。けれども、「痛みは2年ほどで治まる」という執刀医の言葉もあったので、じきに治まるだろうと考えて歩いていました。
ところが、左足の足首の痛みは引くどころか、ひざの内側にまで広がってきたのです。このまま痛みがひどくなれば、歩くこともままならなくなってしまいます。それでは血糖値のコントロールにも支障をきたす可能性があるので、のんびりしてはいられません。
鎮痛剤や靴の中敷きなどを試してみたものの、期待したほどの効果はありませんでした。
こうしていくつかの方法を試しているうちに、なんとなく試していたのが、足の裏の外側を浮かせて歩くことだったのです。
変形性膝関節症の原因は、O脚で歩いていることではないかと、それまでも私はぼんやりと考えることがありました。O脚とは、正面から見ると、ひざ関節のところで脚が外側に「く」の字型に曲がり、両脚が「O」の字を描く状態を言います。
母趾球歩きだと、ひざ関節が真正面を向き、Ⅹ脚に近い状態になるので、「ひざの痛みに効果があるかもしれない」と考えました。それから、足の外側をできるだけ接地させずに歩くようにしたところ、わずか1週間ほどで、ひざの痛みが消えたのです。不思議なことに、手術の影響で生じた足首の痛みまで取れていました。
その効果に驚いた私は、この歩き方を、ひざの内側の痛みに悩む多くの患者さんに伝えようと考え、「母趾球歩き」と名づけました。
歩くとき、前に運んだ足がかかとから接地したら、すぐ母趾球に重心を移動させ、そのまま母趾球部で地面を蹴って歩く。それが母趾球歩きです。
100%の患者さんに著しい効果が現れた
進行するとO脚になる変形性膝関節症ですが、発症したばかりの頃には、ひざの内側が痛むのではなく、ひざの前側、お皿の周りに痛みが現れます。しかも、痛むのは歩くときだけです。
これが私の言う変形性膝関節症の「ステージ1」、つまり始まりの段階です。しかし、この段階では、レントゲン撮影をしても異常が見られないので、変形性膝関節症と診断されることはまずありません。
これが進行してくると、歩行以外の動作中や安静時にも痛むようになり、かつ痛みがひざの内側に集中するようになります。この段階から、レントゲンにはっきりと異常が現れ、変形性膝関節症と診断されるようになります。痛みがひどくて歩きづらいという患者さんには、痛み止めの注射をすることもあります。
私はこれまで、変形性膝関節症の患者さん300人ほどに母趾球歩きを勧めてきました。その結果、経過を報告してくれた患者さんの100%に著しい効果がありました。
関節症の進行度によって改善のスピードは異なりますが、かなり進行した患者さんでも、2週後には、「平地の歩行は楽になった」と言ってもらえます。逆に、母趾球歩きで症状が悪化したと言ってきた人は1人もいません。
特に、初期の変形性膝関節症の症状が改善するスピードには目を見張ります。最も速い例では、午前中に診察に来た70代の女性で、夕方には痛みが取れていたというケースがありました。また、相当進行していた変形性膝関節症の男性患者さんの中に、数週間でゴルフのラウンドに戻れるようになった人もいます。
なお、まずありえないことだと思いますが、母趾球歩きをしていて、万が一、ひざ関節に違和感や痛みを覚えたら、いったん中止して、整形外科医の診察を受けるようにしてください。
母趾球(ぼしきゅう)とは

足の裏にある、親指側の丸い膨らみの部分を「母趾球」と言います。この部分を中心とした足の親指と人さし指のつけ根=母趾球部に重心をかけ、地面を蹴るのが母趾球歩きです。
かかとから母趾球に体重を移す意識で歩く
母趾球歩きは、足の裏の「母趾球部」で体重を支え、地面を蹴って歩く歩き方です。
まず、親指をまっすぐ進行方向に向けて歩くことを心がけます。
そして、前に出した足のかかとで接地したら、すぐ母趾球部に重心を移し、そのまま母趾球部で地面を蹴って歩きます。足の親指と人さし指を使う感覚です。
足の外側を無理に浮かせて歩くのではなく、母趾球部に体重を乗せることだけを意識すればけっこうです。足の外側を無理に浮かせて歩くと、薬指にマメができることが、私自身と妻の経験でわかっています。
足の外側(小指側)はあまり意識せず、母趾球を使うことだけ考えるのがうまく歩く秘訣です。そして、階段の昇り降りや、しゃがむときも、母趾球を使うことを意識してください。
母趾球歩きは、偏りを正す歩き方

私たちはふだん、ゆっくり歩くときはまず足の外側で体重を支え、その後に母趾球で地面を蹴っています。
ところが、足の外側ばかりに体重を乗せる癖がつくと、O脚歩きからひざ痛を起こすことになるのです。
母趾球歩きは、その偏りを正す歩き方です。続けていると、ひざの痛みが取れるだけでなく、姿勢もよくなっていきます。
実際に行うときは、ふだんより少し速く歩くと、母趾球を使って歩きやすくなります。
ひざの痛みを取る母趾球歩きのやり方

解説者のプロフィール

たなか みずお
1971年、京都大学医学部卒業。関節外科医として多くの手術を手がけてきた。現在、函館共愛会病院に、非常勤医師として勤務し、患者に母趾球歩きを指導している。「YAHOO!ブログ」に『田中瑞雄の母趾球歩きと薬ありの低糖質食』を開設。著書に、『変形性膝関節症は母趾球歩きで克服できる』(日本評論社)。