足のむくみが慢性化した状態は、「慢性静脈不全」という病気

放置すると血栓ができ、エコノミークラス症候群になる可能性
人間は立って二足歩行を始めたことで、大容量の脳を獲得し、大きく進化することができました。その一方で、体には大きな負担がかかるようになったのです。
その一つが、重い脳を支えるためにかかる背骨などへの負担。そして、もう一つが血流の問題です。
心臓から送り出された血液は、体の隅々まで流れ込みます。その際、血液をくまなく全身に循環させるには、足先まで行った血液が、スムーズに心臓へ戻らなければなりません。
しかし、心臓のポンプ作用で強く送り出される動脈血とは異なり、静脈血は心臓のポンプ作用に頼れません。しかも、足にある血液は、重力に逆らって心臓まで戻る必要があります。このため、静脈血は戻りが悪く、血流障害に見舞われやすいのです。
この静脈血を心臓へ戻す主な原動力が、ふくらはぎのポンプ作用です。ふくらはぎが「第二の心臓」といわれるのは、このためです。
ところが、現代人は、歩く機会が昔に比べて少なくなりました。仕事によっては、1日じゅう立ちっぱなし、座りっぱなしということも珍しくありません。そうなると、ふくらはぎの筋肉は弱まり、ポンプ作用がよく働かなくなるのです。
この結果起こるのが、足のむくみです。足のむくみの原因は、リンパ液の滞りと考えているかたが多いのですが、実は、それは正しくありません。
ふくらはぎのポンプ作用が働かないと、静脈血がきちんと心臓へ戻らず、足に停滞します。すると、静脈内の圧が高まり、毛細血管から水分が染み出ます。これが、足がむくむ主な原因なのです。
足のむくみの90%は、この静脈血の滞りによるものです。リンパ液によるものは、10%にすぎません。
しかも、見過ごせないのは、足のむくみが慢性化した状態は、「慢性静脈不全」というれっきとした病気であることです。たかがむくみと、軽視するべきではありません。
慢性静脈不全の悪化で、血液の逆流を防ぐために静脈内についている弁が壊れたり、静脈に血液がたまり、コブのように膨れ上がる下肢静脈瘤ができたりします。下肢静脈瘤がひどくなると、レーザー治療などが必要になるのです。
また、慢性静脈不全が進むと、皮膚が茶褐色に変色してきます。最悪の場合、皮膚が腫れて厚くなり、潰瘍ができて破れることもあるのです。こうなると、治療は容易ではありません。
しかも、静脈血が足に滞っていると、そこに血栓ができやすくなります。こうしてできた血栓が静脈を上って肺動脈に詰まるのが、死を招くこともあるエコノミークラス症候群です。
慢性静脈不全を放置すると、このようなリスクがあるのです。
慢性静脈不全はこんなに怖い

初期症状は足のむくみと痛み、慢性静脈不全の対策に弾性ストッキングが有効
ある調査によれば、女性の半数が足のむくみを感じているといいます。ところが、男性も、女性と同じくらいの人に足のむくみがあるのです。慢性静脈不全は一般に、人口の40〜50%に起こっているとされています。
慢性静脈不全の初期症状としては、足のむくみ、くぼみ、むくみに伴う足のだるさ、重さ、つっぱり感、痛みなどが挙げられます。
このような足の症状を感じているかたは、日ごろから対策を取る必要があります。
具体的には、運動を心がけることです。特に、ふくらはぎの筋肉をできるだけ動かすようなウォーキングや、ふくらはぎのマッサージを行ってください。
睡眠時などに、まくらの上に足を乗せるなどして、足の位置を心臓の位置より少し高くして寝るのも一つの方法です。
着用することで足に圧を加えて血流を促す、弾性ストッキングを利用するという方法もあります。高齢で歩行が困難なケースにも、弾性ストッキングはお勧めです。
慢性静脈不全について知るだけでも、ふくらはぎが、いかに私たちの健康維持に重要な役割を果たしているかが、よく理解できると思います。
解説者のプロフィール

星野俊一
1965年、福島県立医科大学大学院医学研究科卒業。1974年、南カリフォルニア大学胸部心臓血管外科客員教授。1988年、福島県立医科大学心臓血管外科講座教授。2000年、社会医療法人福島厚生会理事長。2003年、社会福祉法人慈仁会理事長。6300例以上の心臓血管外科手術を経験。静脈疾患研究の第一人者。