解説者のプロフィール

坂田隆夫(さかた・たかお)
日産厚生会玉川病院循環器科副部長。
東邦大学医療センター大橋病院循環器内科客員講師。
至高会たかせクリニック非常勤医師。
公益社団法人調和道協会と連携して、呼吸法が心と体に及ぼす変化について、科学的に研究を続ける。
著書に『自律神経を整える「長生き呼吸」』(マキノ出版)がある。
深くゆっくり行う腹式呼吸「長生き呼吸」とは
息を吸うときに腹が膨らみ、吐くときに凹む腹式呼吸を、深くゆっくりと行うと、健康向上やダイエットに役立ちます。
しかし、そうした効果は、これまで臨床医学的に検証されてきませんでした。
そこで私は、呼吸が心身に与える影響を、最新の医療機器を用いて調査しています。
これまでの研究により、深くてゆっくりした腹式呼吸には、自律神経を整える作用があり、ポイントを押さえればダイエットにも有効と判明しました。
呼吸法の健康効果には、科学的な裏づけがあるのです。
私は、こうした効果を持つ深くゆっくりした腹式呼吸を、「長生き呼吸」と名づけました。
「長生き呼吸」で自律神経が整うと医学的に判明!
長生き呼吸について説明する前に、自律神経についてお話ししましょう。
自律神経には活動時や緊張しているときに働く交感神経と、休息時やリラックスしているときに働く副交感神経があります。
両者は巧みにバランスを取り合い、体内の諸機能を絶え間なく調整しています。
現代人はストレスの多い生活をしているため、交感神経優位になりがちなので、副交感神経を高める必要があります。
しかし、自律神経は、「自律」というだけあって、体が自ら制御しています。
自分の意志ではコントロールできないのです。
そこで、注目したいのが、長生き呼吸です。
長生き呼吸をすると、本来は関与できないはずの自律神経に意識的に働きかけることができます。
副交感神経を中心としたいいバランスになるよう、整えることができるのです。
健康効果の高い呼吸のポイントとは
長生き呼吸のような、健康効果の高い呼吸のポイントは、次の三つです。

①横隔膜を上下に大きく動かす
横隔膜は、ドーム型をした、胸郭と腹を隔てる膜状の筋肉です。
腹式呼吸で普通に息を吸うと、無意識のうちに横隔膜が収縮して下がり、腹が膨らみます。
逆に、息を吐くと、弛緩して横隔膜が上がり、腹が凹みます。
呼吸機能は、自律神経の支配下にあるので、横隔膜の周辺には自律神経が集中しています。
ですから、横隔膜を大きく動かす呼吸は、自律神経へのいい刺激となるのです。
また、横隔膜を大きく動かすと体内に酸素を十分に取り込めるので、エネルギー代謝が高まり、太りにくい体になります。
内臓の大きな動きは、脂肪燃焼と便秘の解消を促し、これもダイエット効果につながります。
②腹圧をかける
息を完全に吐き切り腹を凹ませると、みずおちの部分が緩む一方で、下腹部が引き締まる感覚を得られます。
腹圧をかけるには、これが最も簡単です。
背骨や骨盤を支える筋肉が鍛えられます。
肛門を締める動きを意識して行うと、骨盤底筋群や、体の深部にある腸腰筋など、姿勢を支える筋肉の強化にもつながります。
腰周りに筋肉がつくので、腰痛の改善に著効です。
腹部の引き締めにも、大いに役立ちます。
③ゆっくりと長く息を吐く
深くゆっくりとした呼吸で、長く息を吐くと、副交感神経が優位になることが、研究で判明しています。
精神安定にも効果があるため、イライラや暴飲暴食が抑えられるのです。
また、ゆっくり吸うことで、肺の隅々まで酸素が送り込まれるため、血行が促進され、冷えやむくみの改善にも有効です。
なお、体がかたいと、浅く速い呼吸になりがちです。
特に肩甲骨周りや背中、腰周りの筋肉を柔軟に保つと、より深い呼吸ができるようになります。
上記の三つのポイントを押さえている点で、「わき腹呼吸」は、長生き呼吸と、共通しています。
ぜひ、医学的に効果が証明された呼吸法を身につけて、健康づくりに役立ててください。
「わき腹呼吸」については、下の記事で詳しく紹介されています。