便通を改善し代謝アップ 最良のダイエット食品
皆さんのなかには、「そばは日本古来の食べ物」と思っている人が多いかもしれません。
確かに、落語にもよく出てきますし、だしとしょうゆで、そばを食べるという食文化は、日本だけかもしれません。
ところが実際は、日本以外の国や地域でも、そばは昔からさかんに食べられているのです。
麺状にして食べるのは、日本と中国、韓国、イタリアなど、限られた地域ですが、そばの実やそば粉は、食材として世界中で使われています。
1980年からは、3年ごとに国際そばシンポジウムが開催され、世界各国の研究者が集まって、そばに関する研究や調査結果を発表しています。
最近、日本でもテレビの情報番組がきっかけとなり、「そばの実がダイエットに効果的」という話題で盛り上がっているようです。
確かに長年、そばの機能成分や健康効果を研究してきた私から見ても、そばは最良のダイエット食品といえるでしょう。
便通をよくして代謝を上げ、余分な脂肪の排出を促進しつつ、必要な栄養素をしっかり摂取できるという意味で、「スーパーフード」と呼ばれるのも納得できます。
では、そばの持つ機能について、説明しましょう。
たんぱく質は、私たち人間にとって、「血となり肉となる」重要な栄養素です。
たんぱく質を構成するアミノ酸は、約20種類ありますが、そのうち九つは体内で作れないため、食事でとる必要があります。
これを必須アミノ酸といいます。
よく「良質のたんぱく質」といいます。
たんぱく質のよしあしは、「必須アミノ酸をどれだけまんべんなく、多く含んでいるか」で決まります。
その指標を「アミノ酸スコア」といい、最大値は100です。
肉や魚、卵、乳製品は、アミノ酸スコアが100の「良質のたんぱく質」食品です。
お気づきのように、いずれも動物性食品ですが、植物性食品のなかにもアミノ酸スコア100の食品があります。
それが、そばです。
肉をはじめとする動物性たんぱく質の多くは、コレステロールや脂質を多く含んでおり、とり過ぎると生活習慣病につながる可能性があります。
その点、植物性食品のそばなら、脂肪のとり過ぎを心配することなく、肉や卵と同等のたんぱく質を摂取できるのです。
そばの栄養価が優れていることは、比叡山延暦寺に伝わる修行からもわかります。
修験者たちは100日間、そばの実と少量の野菜しか口にしません。
それでも修行が続けられるのですから、そばの持つ力は計り知れません。
グルテンを含まず欧米でも大人気!
また、そばには「レジスタントプロテイン」という成分も含まれています。
レジスタントプロテインは、消化酵素で分解されにくいたんぱく質で、食物繊維のような働きをします。
そば以外には、酒かすやダイズなど、限られた食品にしか含まれていません。
食物繊維と同様、便通を促したり、血糖値の急上昇を抑制したりします。
そのほかにも、脂肪の吸収を抑える効果があります。
通常、私たちが食事でとった脂肪は、小腸で胆汁酸と結びつき、体内に吸収されます。
レジスタントプロテインは胆汁酸と結びついて、脂肪と胆汁酸が結びつくのを防ぎ、脂肪をそのまま体外に排出すると考えられています。
良質のたんぱく質をとりつつ、余分な脂肪は排出されるのですから、そばを食べて健康的にやせる人がいるのは、うなずける話です。
さらに、最近、話題になっている「グルテンフリー」についても、お話ししましょう。
グルテンとは、小麦粉に含まれる粘り気のあるたんぱく質です。
うどんのコシを出すのも、パンやお菓子の生地がまとまるのも、グルテンの作用です。
一方で、グルテンの分解酵素を持っていない人がグルテンをとると、アレルギー反応や自己免疫疾患(セリアック病)を発症することもあります。
小麦を主食にする欧米人には患者数が多いため、グルテンフリー食品(グルテンを含まない食品)を望む声が大きいのです。
そばには、グルテンが含まれていません。
そのため、欧米では現在、そばの人気が高まっています。
そばの実やそば粉を使った昔ながらの料理が、再び注目を集めているのです。
東欧のスロベニアには、そば粉のパンやケーキ、そばの花や茎のジュースなどがあります。
イタリアでは、そばのパスタや、そば粉でチーズを包んで揚げたシアットという軽食が人気です。
ロシアでは、そばの実を炊いたカーシャを主食にしたり、肉料理に添えたりします。
フランスのガレット(そば粉のクレープ)は、最近、日本でも出すお店がありますね。
皆さんもぜひ、栄養価が高く、健康・ダイエット効果が期待できるそばの実を、食卓に取り入れてください。
池田 清和
神戸学院大学栄養学部教授。1972年、京都大学農学研究科修士課程修了。1987年、京都大学にて農学博士号取得。2007年、世界的そば学者7名とともに、国際蕎麦学会・学会賞受賞。2007年から9年間、国際蕎麦学会・学会誌編集長を務める。