脳を若返らせ認知機能を高めるのに役立つ
なぜ、猫を見たり、なでたりすると、私たちは癒されたと感じるのでしょう。
その疑問を解消するために私が行った、一つの実験についてご紹介しましょう。
ヒトは、猫と触れ合うと、脳に大きな変化が現れます。
そこで、私たちの研究グループは、「光イメージング脳機能測定装置」を使って、そのときの脳内の活動状態を調べました。
すると、犬と猫に触れ合ったときをそれぞれ比べたところ、猫と触れ合ったときのほうが、2倍近く脳の活動が高まることがわかりました。
また、猫に関しては、ただ猫の姿を見るだけのケース、実際になでるケース、猫といっしょに遊んでいるケースなど、いずれも脳の活動状態が向上したのです。
特に興味深いことは、最も脳が活発に動くのは、猫が命令を聞いたときではなく、命令を聞かなかったときだったという点です。
猫は、いわゆる「ツンデレ」な動物です。
命令しても、すなおに従ってくれることはまれ。
自由気ままにふるまい、こちらに全く興味がないように見えたかと思えば、近寄って甘えてきたり……。
猫のツンデレのふるまいこそ、私たちの脳を最も賦活させるのです。
脳の血流が増えたと確認されたのが、脳の前頭前野という部分です。
前頭前野は、脳の司令塔であり、人間を人間たらしめている部分です。
脳で神経細胞が活発に動くと、多くの酸素が必要となります。
すると、酸素を多く含んだ血流量が増えるのです。
このように、動物との触れ合いは前頭前野の活性化につながると考えられます。
高齢のかたの場合、脳を若返らせ、認知機能を高めるのに役立ちます。
また、認知症の予防という観点からいえば、高齢のかたが猫と暮らすことは、大いに勧められます。
脳活性の手段としては、申し分ないでしょう。
猫と暮らすことは、かわいがることで癒し効果が得られるのと同時に、さまざまな作業が必要となります。
食事や飲み水の用意をする、トイレの始末をする、フードが足りなくなれば買いに出かけるなど、こうした一連の作業はすべて、脳をよく使うことにつながるからです。
猫のツンデレのふるまいこそ、脳を最も賦活させる

ドイツの医療費削減効果は約7500億円!
さらに、猫を飼うことは、脳を活性化させる以外にも、さまざまな健康効果が得られることがいくつかの研究で確かめられています。
アメリカのミネソタ大学は、4000名を超える男女を13 年にわたって追跡調査し、猫と暮らしている2435名と、猫と暮らしていない約2000名を比較しました。
その結果、猫と暮らしているグループは、心筋梗塞などで亡くなる確率が40%も低くなるとわかったのです。
なぜ、そうなるのでしょうか。
その理由については、以下のような推測ができます。
心血管系疾患の発症には、ストレスが大きなウエイトを占めています。
さまざまなストレスに満ちた社会で生きている私たちは、日々、不安や緊張を感じることが多くなっています。
脳の大脳辺縁系には、感情をコントロールしている扁桃体という部分があります。
不安や緊張が強まると、扁桃体が過剰に反応します。
こうした強く持続的なストレス反応は、最終的に、心筋梗塞や脳卒中などの引き金となるのです。
扁桃体の興奮を抑えるのが前頭前野であり、両者は密接に関係しています。
つまり、猫と触れ合い、前頭前野の活動が活発になることは、猫によって癒される以上の健康効果をもたらすのです。
また、オーストラリア・メルボルン大学のハーディー博士は、ドイツ、オーストラリア、中国である調査を行いました。
それによると、ペットと暮らしている人は、ペットのいない人に比べて、病院への通院回数が15~20%も少なかったと報告しています。
ハーディー博士の試算によると、ペットのおかげで病院に行かずに済んだ結果、ドイツでは約7500億円、オーストラリアでは約3000億円の医療費削減効果があったといいます。
超高齢化社会に突入し、医療費が増大しつつある我が国においても、こうした結果は軽視できないでしょう。
猫と暮らすことで健康になり、病院に行く必要がなくなれば、医療費を削減する一助となることはいうまでもありません。
猫の場合、実際に飼うことができなくても、テレビで猫の番組を見たり、猫の写真集を見たりして、「かわいい!」と感じるだけでも、脳活性に効果があります。
また、最近増えている「猫カフェ」に行けば、気軽に触れ合うこともできます。
ご自分に合った、猫とのつきあい方を見つけてください。
解説者のプロフィール

内山秀彦
1978年、神奈川県出身。麻布大学大学院博士課程修了。2011年より現職。ヒトと動物の関係学会常任理事。