解説者のプロフィール
ふくらはぎを鍛えて血液循環を改善する
足や腰などの痛みは、整形外科の治療だけでは、なかなか改善しないことがあります。
そうした痛みを和らげるには運動療法が有効ですが、患者さんに運動を勧めても、「どうやっていいのかわからない」「1人ではなかなか長続きしない」など、いろいろな壁がありました。
そこで私は、昨年の4月から週に1回、院内で「整形外科ヨガ」という体操教室を開いています。
私自身、ヨガで産後の体の痛みやストレスが和らいだ経験があり、「これを応用すれば、高齢者でも無理なく筋肉を鍛えられる運動療法が作れるのではないか」と思ったのです。
整形外科ヨガは、ただの体操とは異なります。
呼吸法を意識し、自律神経の機能を整えながら筋トレをするのが特徴です。
この整形外科ヨガで必ず行うのが、「カーフレイズ」という、「つま先立ち」の動作です。
主に、ふくらはぎの筋肉が鍛えられます。
ふくらはぎの筋肉量(周囲径)は、全身の筋肉量を反映する、というデータがあります。
つまり、ふくらはぎの筋肉が鍛えられている人は、運動能力が高く、全身の筋肉も鍛えられている人が多いのです。
ロコモティブ・シンドローム(運動器の障害や機能低下のため、寝たきりや介護を受けるリスクが高くなる状態)を予防する「ロコモ体操」には、必ずつま先立ちが入っています。
下肢(下半身)の筋肉は、「第2の心臓」といわれ、血液循環の重要な役目を担っています。
足を動かすと、ふくらはぎの筋肉が、ポンプのように収縮・弛緩し、血液を末梢から心臓に戻してくれます。
ですから、ふくらはぎをよく動かして鍛えていれば、血液循環が改善し、同時にリンパ液の流れの改善も期待できます。
つま先立ちは、かかとを上げるだけの簡単な体操です。
整形外科ヨガに参加されている患者さんは、体のどこかに痛みを抱えているかたも多いのですが、これなら無理なく行えます。
全身の骨が強くなり骨粗鬆症の予防に有効
私は、この体操を行う際、かかと立ちもセットで行うように指導しています。
つま先立ちでかかとを上げ下げしたあと、かかとで立って、つま先を上げます。
これを交互にくり返すことで、ふくらはぎだけでなく、すねの筋肉も、バランスよく鍛えられるのです。
ポイントは、呼吸に合わせて行うことです。
おなかを凹ませ、鼻で息を吸いながら、つま先立ちをします。
そして、おなかを凹ませたまま口で息を吐き、ゆっくりかかとを下ろします。
かかと立ちするときも、同様に行いましょう。
立ちながら動くことが不安なかたは、転ばないよう、壁や机などにつかまりながら行ってください。
イスに座りながら行ってもかまいません。
その際、太ももにひじをつけ、負荷をかけてください。
このように段階を踏んでから、立って行えるようになりましょう。
効果を上げるコツは、つま先立ちをしたときに、ひざをまっすぐに伸ばし、ひざと足首の関節をしっかり使うことです。
こうして少し強めの負荷をかけることで、筋肉が鍛えられます。
つま先立ちとかかと立ちは、交互に各10回行ってください。
これを、1日に3セットできるようにしましょう。
無理のない範囲であれば、回数は増やしてもかまいません。
この体操を行うと、血液の循環がよくなるので、冷えやむくみが解消しやすくなります。
また、全身の骨を強くするので、骨粗鬆症の予防にも有効です。
さらに、筋力がつけば転倒防止に役立ち、歩行も改善します。
すると、足腰が鍛えられ、腰やひざの痛みが軽減します。
特に変形性ひざ関節症のかたは、ひざをまっすぐ伸ばしにくくなって、ひざの裏に痛みが出がちです。
しかし、つま先立ちでひざをまっすぐ伸ばす動きをくり返せば、痛みもしだいに取れていきます。
痛みは、筋力がつけば消えやすくなるのです。
つま先立ちは、皿洗いをしながらなど、生活のなかに取り入れやすいのも利点です。
ぜひ、毎日行ってください。
整形外科ヨガ式、つま先立ちのやり方

井上留美子
松浦整形外科院長。日本整形外科学会認定整形外科医、リハビリ認定医、リウマチ認定医、スポーツ認定医。2002年、父親が開業した医院を継ぎ、院長となる。男性医師が多い整形外科分野において、女性らしく対話を重視した治療を目指し、地域の幅広い層の患者から信頼を寄せられている。
●松浦整形外科
http://www.matsuura-ort.com/