チーズをとった肥満者は体重減少が顕著だった
チーズとヨーグルトは、乳(主に牛乳)を材料にした発酵食品です。
それぞれに特徴があり、求められる機能性も違います。
ヨーグルトは乳酸菌やビフィズス菌をとって腸の環境を整えるための食品、チーズは良質のたんぱく質とカルシウムの供給源で、筋力や骨の強化を助ける食品。
私は、そのようにとらえています。
ここでは、チーズの主な健康効果についてお話ししますが、その前に、基本的なチーズの作り方を説明しておきましょう。
まず、牛乳を加熱・殺菌し乳酸菌で発酵させたあと、酵素(凝乳酵素)で固めます。
次に、固まった物に細かい切れ目を入れて、加温しながらホエイ(乳清たんぱく質やミネラルを含む水溶液)を抜きます。
最後に、塩を加えて熟成させると出来上がりです。
これは、海外でよく食べられている「ナチュラルチーズ」。
乳酸菌が生きているチーズで、時間の経過とともに、味や香りが変化します。
世界には、1000種類以上のナチュラルチーズがあり、すぐに食べられる「フレッシュタイプ」と、時間をかけて保蔵させてから食べる「熟成タイプ」があります。
日本でよく口にする「プロセスチーズ」は、ナチュラルチーズのゴーダチーズやチェダーチーズを原料に、乳化剤を加えて混ぜ合わせ、加熱・溶解したあとに固めた物です。
乳酸菌や酵素の活性は失われますが、チーズの味や香りは固定され、長期の保存が可能です。
では、代表的なチーズの健康効果をお話ししましょう。
ダイエット効果
チーズの成分は、水分を除くと約半分がたんぱく質、残りの半分が脂肪。
そう聞くと、「やはりチーズは太りやすい」と思う人がいるかもしれません。
しかし、それは誤りです。
アメリカ・テネシー大学のゼメル教授の研究で、乳カルシウムにダイエット効果があることがかわかっています。
そのなかで、カルシウムをサプリメントと、チーズなどの乳製品でとった場合、後者のほうが肥満者の体重減少が顕著という結果が出ています。
また、チーズの脂肪は体内でエネルギーになりやすく、蓄積されにくいので、肥満の原因にはならないのです。
さらに、チーズは腹持ちがいいので、ほかの食事の量を無理なく減らすことも可能で、ダイエットに活用するのは最適です。
ただし、チーズには食物繊維やビタミンCが含まれていないので、野菜や果物をいっしょにとるとよいでしょう。

虫歯の穴をふさぎ歯垢の生成を抑える
筋力をつける効果
今、注目されているのは、運動後にチーズを食べて、筋力をつけ、サルコペニア(筋肉減少症)を防ぐ効果です。
サルコペニアは、加齢などによって筋肉量が減少し、身体機能が衰えた状態をいいます。
75歳を過ぎるころから急増。
進行すれば、寝たきりや認知症を招くこともあります。
チーズをとることで筋力がつく理由は、主要なたんぱく質の「カゼイン」にあります。
カゼインは熟成によって、アミノ酸やペプチド(アミノ酸が2個以上つながったもの)に分解されます。
そのなかに、たくさん含まれているのが、ロイシンやバリン、イソロイシンなどの分岐鎖アミノ酸(BCAA)です。
分岐鎖アミノ酸には、たんぱく質の合成を促す働きがあります。
最近の研究では、特にロイシンが筋肉細胞に取り込まれると、筋肉をつくる遺伝子にスイッチが入ることがわかっています。
骨粗鬆症を防ぐ効果
カゼインは小さな粒状のたんぱく質の集合体で、その粒子をリン酸カルシウムがつないでいます。
チーズにはリン酸カルシウムの架橋(結合)が壊れずに残っており、しかも10倍に濃縮されています。
ですから、チーズは少量で効率よくカルシウムを摂取できるのです。
ちなみに、牛乳のカルシウム吸収率は40%と高く、チーズもほぼ同等です。
カルシウムは、骨や歯の構成要素。
チーズでカルシウムをたくさんとれば、骨が丈夫になり、骨粗鬆症も予防できます。
血圧を下げる効果
チーズに豊富なペプチドには、血圧を下げる働きを持つ「降圧ペプチド」が多数含まれています。
これらの降圧ペプチドをとると、ACE(アンジオテンシン変換酵素)という酵素と結合し、血圧を上げるアンジオテンシンⅡというホルモンの生成を抑制し、血圧を下げると考えられます。
これは、降圧剤のACE阻害薬と同じような働きといえるでしょう。
虫歯を防ぐ効果
欧米の研究では、10 %の砂糖水で口をすすいだあとに、5gのチーズを噛むと、歯のエナメル質(表層)の脱灰(歯に穴が開くこと)が抑えられたという報告があります。
また、その際に71%の被験者で、プラーク(歯垢)のpH(水素イオン指数・酸性<7<アルカリ性)が上がったそうです。
つまり、チーズに含まれるリン酸カルシウムが、虫歯で開いた穴をふさぎ(再石灰化)、チーズを噛み唾液の分泌が促進されたことで、歯垢の生成が抑えられたと推測できます。
WHO(世界保健機関)も、かためのチーズが虫歯を予防する効果について、「高い可能性あり」と、食品のなかでは最も高い評価をしています。
認知症を防ぐ効果
加齢に伴って脳内では、アミロイドβという老廃物がたまっていきます。
通常は、免疫細胞(ミクログリア)が除去してくれますが、除去できないほど沈着することで、認知機能などが低下。
これがアルツハイマー病です。
キリンビールの研究グループが行ったマウスの実験では、白カビで発酵させたカマンべールチーズや、青カビで発酵させたブルーチーズなどが、ミクログリアを活性化させ、アミロイドβを有意に減少させることがわかりました。
チーズで、認知症を予防する効果も期待できるわけです。
さて、このように優れた効能を持つチーズですが、どのくらいの量をいつ食べるとよいでしょう。
サルコペニアの予防やダイエットが目的なら、1日50~60g(6p のプロセスチーズなら約3個)は食べてください。
食べる時間は、運動後の60分以内がゴールデンタイムです。
少し負荷のかかる運動をすると、筋組織が疲労して傷つきます。
それをなるべく早く修復するのが、筋肉を強くする王道です。
そこで、運動後60分以内にチーズを食べてロイシンなどの分岐鎖アミノ酸を補給します。
すると、素早くそれらが吸収され、壊れた筋肉を修復します。
こうして筋肉が増えれば、基礎代謝(安静時でも使われるエネルギー量)が上がって、ダイエットにも役立ちます。
最近は、日本でも購入できるチーズの種類が増えています。
チーズは種類によって、味や香りも異なります。
いろいろなチーズを楽しみながら、健康を維持できることはすばらしいことです。
ただし、チーズの健康効果に、種類による大きな差はありません。
手軽に購入できるプロセスチーズを利用しても、十分な効果が期待できます。

齋藤 忠夫
1952年東京生まれ。1982年、東北大学大学院農学研究科修了。農学博士。1989年に東北大学大学院農学研究科助教授、2001年より教授。専門は畜産物利用学・応用微生物学。特に、機能性乳酸菌とチーズやヨーグルトに造詣が深い。日本酪農科学会賞、日本畜産学会賞ほか、数々の賞を受賞。著書に『チーズの科学』(講談社ブルーバックス)など。