最近注目の善玉菌を増やすと判明!
こうじは、日本の食文化に欠かせない食材です。
甘酒やみそ、しょうゆ、酢、日本酒など、日本の発酵食品のほとんどにこうじが含まれており、それが日本人の健康に寄与していることは、疑いの余地がありません。
これまでの研究で、こうじが体内の脂肪を減らしたり、悪玉と呼ばれる血中のLDLコレステロール値や血糖値を下げたりするなど、さまざまな健康効果が報告されています。
しかし、どんな成分がこうした機能をもたらすかは、わかっていませんでした。
こうじの機能成分等についての研究データは、これまできわめて少なく、ようやく研究が進んだばかりなのです。
そんななか、私たち研究チームは、こうじに含まれる新しい成分と機能を発見しました。
それが、「こうじセラミド(グルコシルセラミド)」です。
セラミドは、肌の保湿作用がある物質として有名ですが、それと同じ成分が、こうじに多量に含まれていると判明したのです。
特に、生甘酒には、高濃度で含まれていることもわかりました。
こうじセラミドは、肌への美容効果だけではなく、健康にもよい効果をもたらします。
食べた物は通常、小腸で分解され、吸収されます。
しかし、こうじセラミドは、小腸ではなく大腸で分解されます。
そこで私たちは、こうじセラミドが腸内細菌になんらかの影響を及ぼしているのではないかと考え、マウスに与えてみました。
すると、こうじセラミドが腸内細菌のエサになり、ある善玉菌を増やすことがわかったのです。
その善玉菌とは、最近注目されている「ブラウティア・コッコイデス」という菌です。
ブラウティア菌は、日本人の腸に多く存在する腸内細菌で、これがいると不安感が少なくなる、という報告もあります。
和食を食べると気持ちが落ち着くのは、この菌の影響があるのかもしれません。
善玉菌といえば、ビフィズス菌や乳酸菌が有名ですが、それだけが腸内に存在すればいいわけではありません。
最近のアメリカの研究によると、善玉菌に多様性があるほうが、健康効果が高いそうです。
ですから、生甘酒をとってブラウティア菌が増えれば、さらなる腸内環境の改善効果が期待できるのです。
肝臓の脂肪代謝を促進!糖尿病の改善にも期待!
こうじセラミドは、メタボリック・シンドロームの改善の可能性もあると、我々の研究結果は示しました。
こうじセラミドの大半は大腸まで届きますが、残りの一部は小腸で分解され、肝臓に運ばれます。
そこで我々は、肝臓の脂肪代謝について研究した結果、こうじセラミドが、肝臓内のPPARという因子に作用し、脂肪代謝を活性化させると、細胞レベルで発見したのです。
実際、マウスを使った実験では、肝臓のコレステロール値が有意に低下しました。
PPARは、糖の代謝の活性を促すため、糖尿病にも効果的に働く可能性があると考えています。
生甘酒の場合、糖質が多いので大量にとってはいけませんが、少量であれば改善の期待が持てます。
また、私たちは最新の研究で、肉との食べ合わせに、こうじセラミドが有効であるという可能性を示唆する結果も得ています。
肉を食べ過ぎると、脂肪を分解する胆汁酸が大量に分泌されます。
胆汁酸が出過ぎると、腸内細菌叢を乱し、腸の粘膜を傷つけてしまいます。
しかし、こうじセラミドには、胆汁酸から腸内細菌叢を保護する作用があるとわかったのです。
これらの実験は、まだヒトでは確認されていません。
動物実験や試験管内の実験段階ですが、ヒトによる健康効果も、十分期待できると考えています。
ですから、毎日少しずつでもいいので、生甘酒を飲んでください。
続けることが大切です。
1日コップ1杯分を飲めばいいでしょう。
胃酸で生甘酒の酵素が失われないよう、食後に飲むことをお勧めします。
ちなみに、私も、毎日少量の生甘酒を飲んでいます。
そのおかげで、便通がよくなり、肌がスベスベになりました。
生甘酒などの発酵食品は、遠い祖先から何百年にもわたって受け継がれてきた、貴重な贈り物です。
しかし今、そのこうじ文化が衰退しつつあります。
その伝統を途絶えさせないためにも、さらなるこうじの研究を進めていきたいと思います。
こうじに含まれる新しい成分と機能を発見

解説者のプロフィール

北垣浩志
佐賀大学農学部教授