発酵によって有益なアミノ酸がグンと増加!
今、米こうじから作る「食べる甘酒(生甘酒)」が大ブームになっています。
しかし、米こうじから作られた甘酒について、ヒトへの機能性を科学的に検証した報告は、これまでほとんどありませんでした。
そこで、私は2015年、大手酒造メーカーとの共同研究により、その機能性について確かめることにしました。
この研究結果は、昨年12月に放送された「あさイチ」(NHK総合)で取り上げられ、大きな話題を集めました。
被験者は、当大学の女子大学生12名です。
米こうじと水だけで作ったノンアルコールの甘酒を、6名には100g、残りの6名には200g、毎日就寝前に飲むことを4週間続けてもらいました。
なお、甘酒とは別に、3食はしっかりとってもらいました。
飲み方は指定しなかったので、冷たい状態で飲んだ人もいれば、人肌程度に温めて飲んだ人もいたようです。
4週間後、皮膚の溝の面積から肌のキメを測定すると、どちらのグループも、腕・首の肌のキメが整うという傾向が確認できました。
また、肌の水分量は、腕と首のどちらも増えました。
そして、100g飲んだ人よりも、200g飲んだ人のほうが水分蒸発量は抑えられ、肌の水分量が高くなったのです。
皮膚はいくつもの層でできていて、いちばん上の角質層は、バリア機能を果たしています。
外部の刺激から守ったり、肌から水分が蒸発するのを防いだりしているのです。
肌のキメが整うと、このバリア機能が高まります。
その結果、水分を肌に閉じ込め、肌の水分量が増えたと考えられます。
被験者の実感としては、「冬でカサカサだった肌がモッチリした」「吹出物が減った」「肌にハリが出た」「化粧のりがよくなった」などの声が聞かれました。
肌以外の効果では、ひどい便秘が改善した人や、血液中のヘモグロビンの量が増えて貧血が改善した人もいました。
なお、被験者たちは、ふだんの食事に甘酒をプラスしたにもかかわらず、体重が増加する人はいませんでした。
では、米こうじの甘酒が、どうして肌によい効果をもたらしたのでしょうか。
私の専門は、アミノ酸研究です。
アミノ酸は、肌や髪を作るのに必要なたんぱく質の構成成分で、ネックレスのように連なっています。
そして、それが一つに分離されて遊離アミノ酸になると、さまざまな機能を発揮することがわかっています。
そこで、私は甘酒に含まれる遊離アミノ酸の総量を分析しました。
すると、発酵によって、総量がグンと増えることが確認できたのです。
加えて甘酒は、発酵2時間後から、有害な活性酸素の発生を防ぐ、抗酸化力も高まることがわかりました。
体内に活性酸素が増えると細胞が傷つけられるため、多くの肌トラブルにつながります。
ですから、抗酸化作用のある甘酒を定期的に摂取することは、肌を良好に保つためにも有効なのです。
肌のキメが整い水分量が高まった!

1g 20 万円相当の美肌物質も含まれている
数ある抗酸化物質のなかでも、アミノ酸の一種「エルゴチオネイン」は、ビタミンEの7千倍の抗酸化力を持つといわれています。
「最強の抗酸化物質」とも呼ばれ、絶大な美肌効果を持つこの合成商品は、なんと1gあたり約20万円もする貴重な物です。
甘酒には、このエルゴチオネインが含まれていることが、別の研究で報告されているのです。
そのほか、甘酒に含まれるオリゴ糖は、腸内で善玉菌のエサになります。
腸内環境が整うので、美肌効果につながると考えられます。
体内に腐敗物質がたまると、血液が汚れて肌荒れの原因になります。
腸内環境が整えば、腐敗物質の生成が減少します。
腸での栄養成分の吸収が上がるため、肌の状態も改善しやすくなるのです。
今回、私が行った研究は、被験者の平均年齢が21・4歳と若かったため、シミやシワへの効果は確認できませんでした。
しかし、角質層が整って肌の新陳代謝が正常化すれば、シミ・シワなども消えやすくなります。
幅広い世代の肌トラブルの改善も期待できるでしょう。
甘酒は、糖質が高いため、とり過ぎはよくありませんが、1日200g 程度を毎日摂取すれば、肌にも体にもよい効果が期待できます。
なお、研究で使った甘酒は、新たな菌の繁殖を防ぐ目的から、加熱殺菌をして酵素を死滅させています。
市販されている甘酒と同じ状態です。
ですから、手作りの生甘酒を摂取すれば、酵素が生きたままとれるので、より高い美容・健康効果が得られるでしょう。
ぜひ皆さんも、生甘酒で美肌づくりを目指してください。
解説者のプロフィール

高岡素子
神戸女学院大学人間科学部教授