解説者のプロフィール
親指のつけ根の筋肉が首、肩まで連動している
首、肩、背中のこりを訴える人は多いですが、意外と誰も気づかないのが、「手のひら」のこりです。なかでもこりやすいのが、母指球という親指のつけ根のふくらみ部分。ここを、反対側の親指でギュッと押してみてください。強い痛みや、硬いしこりがあったらそれは「こり」です。
このこりをほぐすと、それだけで上半身の筋肉の緊張がほぐれ、首や肩のこりを始めとする上半身の症状が改善します。
私がそのことを発見したのは、1年ほど前のことでした。それまで、腕のつけ根にお灸やマッサージをしてこりをほぐし、残ったこりを手のひらで取っていました。ところがその方法だと、こりの程度が強い人は改善に時間がかかります。
もっと早くこりをほぐす方法がないか考えていたところ、東洋医学には、体の端(末端)を刺激すると、内臓(体幹)に効果が出やすいという原則があり、親指のつけ根を中心に手のひらのほうからほぐす治療法を取り入れてみたのです。すると、首や肩のこりだけでなく、頭痛、不眠、めまい、耳鳴り、セキ、さらには体幹部の痛みや腰痛まで改善することがわかりました。実際に改善した患者さんの例を紹介しましょう。
Sさん(50代・女性)は、娘さんが引っ越しすることになり、その手伝いに行きました。そこで働きすぎ、肩がバリバリにこってしまい、来院されました。
肩が痛くてどうしようもないというSさんに、私は親指のつけ根にお灸をして筋肉をほぐしました。すると肩のこりがスッと消え、その日1日がとてもらくだったそうです。しかしある程度時間がたつとぶり返すので、Sさんには自分で親指のつけ根をもんでもらいました。それをくり返すうちに、すっかり肩こりがなくなりました。
めまいが改善した人もいます。
Nさん(80代・女性)は2年前にメニエール病で来院され、そのときは首を横に回すと浮き出る首のすじ(椎前筋群)をほぐしてよくなりました。
最近、再びめまいが起こるようになったと来院。ところが、今回は首が固まってまったく動かず、椎前筋群をほぐせません。そこで、代わりに親指のつけ根をもんだところ、その場で首が60度も回るようになったのです。これには、ご本人はもちろん、付き添いの娘さんもびっくりしていました。

手首近くの筋肉を丹念にもむのがコツ
親指のつけ根を刺激するだけで、こうした効果が出るのはなぜでしょうか?
それは、手から肩までの筋肉が関節を介してつながっているからです。
親指のつけ根の筋肉は手首につながっています。さらに、手首から前腕部の筋肉が始まり、ひじ関節を介して上腕二頭筋と関係がでてきます。そして腕の筋肉は、肩につながっているので、親指のつけ根をもめば、腕から肩までの筋肉が一気にほぐれるのです。
また、肩関節には九つの筋肉がついており、その中の大胸筋という筋肉がほぐれると、拮抗筋(伸ばす筋肉と縮む筋肉というように、反対の動きをする筋肉)である肩の僧帽筋もほぐれて、上半身がゆるみます。
上半身の筋肉がゆるむと、筋肉の中を走っている血管の血流がよくなり、痛みやこりが取れていくのです。また、指先から脳につながっている神経の回路もスムーズに流れ、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)の働きが整うようになります。すると、こりだけではなく、頭痛、耳鳴り、めまいといった上半身のさまざまな症状が改善していくのです。
では、親指のつけ根のもみ方を説明しましょう。
まず、手首付近の筋肉からほぐしていきます。ここから、腕、肩、首の筋肉までつながっているので、もまないと上半身全体がほぐれません。そこから、親指のつけ根のふくらみ全体をやさしくほぐしていきます。硬かったり、痛いところがあったらそれがこりです。そこを、親指の腹で気持ちよいくらいの強さでもみほぐします。強く押しすぎると逆に筋肉が硬くなってしまいます。もみほぐすのは、30秒ほどでいいでしょう。基本的には両手をもみほぐしますが、こりの強いほうだけでもかまいません。
最後に太いマジックや小型のすりこぎなどを親指のつけ根に当て、縦、横、斜めなど、いろいろな方向に転がすと、血流が促進され、より筋肉がほぐれます。
こりは一度では完全にほぐれませんから、何度もくり返してください。そして必ず、する前とした後でこりが軽減しているか確認し、症状の変化を見てください。それをくり返すことで、ほぐし方が上達し、症状も改善していくでしょう。
親指のつけ根のもみ方

班目健夫
青山・まだらめクリニック院長。自律神経免疫治療研究所所長。医師医学博士。免疫力を高めて、あらゆる症状の改善をはかるため、自律神経免疫治療を中心に診療している。『「首すじを押す」と超健康になる』(マキノ出版)など著書多数。
●青山・まだらめクリニック
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