股関節が痛む原因について
股関節は、体の中でいちばん大きな関節です。
左右の太ももの付け根にあり、胴体と下肢(足)をつないで、立つ、座る、歩くなど、あらゆる動作の「要」となっています。
股関節が痛むと行動に制限がかかるため、家の中に引きこもりがちになる人が、少なからずいます。痛みがひどければ夜も眠れず、さらに過度な鎮痛剤の服用により胃の調子を悪くする人もいます。
下肢に負担がかかるので、腰痛やひざ痛を併発することもあるでしょう。痛みにより姿勢が悪くなれば見た目も老けます。
このように、動作の要である股関節は、生活のあらゆる事柄に影響を及ぼすのです。そのため、股関節に負担をかけない生活を送ることこそが、いつまでも心と体を若く保つための秘訣といえるでしょう。
股関節が痛む原因は、大腿骨頭壊死症や関節リウマチなど、さまざまな原因がありますが、代表的なものは変形性股関節症です。
実は、日本人の女性にとって、股関節は大きな「弱点」なのです。
実際、変形性股関節症は圧倒的に女性に多く、男女比では男性の7倍に上ります。私のクリニックを訪れる人に関して言えば、実に9割以上が変形性股関節症で、その9割以上が女性です。後で触れますが、その9割以上は「臼蓋形成不全」という遺伝的な要因で発症しています。
日本人の女性だからといって、すべての人が変形性股関節症にかかるわけではありません。しかし、「股関節が弱点」と知ることは大切です。股関節の異変にいち早く気付き、対策を取れるからです。
もちろん、男性にも股関節のトラブルは起こるので、用心は必要です。
以下で股関節の特徴に触れながら、股関節に起こるトラブルについて解説します。
股関節のしくみ

股関節の軟骨がすり減り、臼蓋と大腿骨頭がこすれ合い炎症を起こす
股関節は、骨盤の下部にある臼蓋というくぼみに、大腿骨頭(太ももの骨の先端の丸い部分)がすっぽりはまりこむ形になっています(股関節のしくみの図参照)。
臼蓋と大腿骨頭は、それぞれクッションのような弾力性のある軟骨(関節軟骨)で覆われています。軟骨には潤滑油の働きがあり、股関節は前後左右あらゆる方向になめらかに動くことができます。
股関節は上半身の全体重を支えながら、下肢の動きを支持しているため、大きな負担がかかる部位です。
普通に歩くだけでも、股関節には体重の3~4・5倍の負荷がかかります。階段の上り下りでは、体重の6・2~8・7倍もの負荷がかかります。体重が50㎏あれば、歩行時には150~225㎏、階段の上り下りでは310~435㎏の負荷が股関節にかかる計算です。
日常的に負担がかかる上、加齢に伴って、股関節の軟骨はすり減っていきます。先に述べた変形性股関節症は、軟骨が減り、臼蓋と大腿骨頭がこすれ合って関節が変形したり、炎症を起こしたりして痛みが生じる病気です。
変形性股関節症の引き金となる臼蓋形成不全は、大腿骨頭を支える臼蓋が、生まれつき浅いために、軟骨がすり減りやすくなるものです。
臼蓋形成不全があっても、若いときは軟骨が元気で関節にかかる負荷を受け止められるため、症状はほとんど出ません。しかし、年齢とともに軟骨が傷み、40~50代になると痛みが出る人が多くなります。
世界的にみると、遺伝的な素因で変形性股関節症を発症する例は、イタリアの北部で見られる程度です。アメリカ人は肥満が原因で発症し、遺伝的な要因は、ほぼゼロです。
なぜ日本人の女性に臼蓋形成不全が多いのか、その原因は明らかになっていません。
また、生まれつき股関節を脱臼している先天性股関節脱臼も、女性に多くみられるもので、変形性股関節症の原因になります。
なお、通常、先天性股関節脱臼は乳児期に治療をして治すため、本人も知らないことが多いようです。
対策は、体重を減らし、股関節まわりの筋肉を強くすること
変形性股関節症は、初期には自覚症状が軽く、関節の痛みがひどくなるころには、ほとんどの人が進行期~末期段階に達しています。足の付け根に痛みが出るようになると、立つ、歩くなど日常の動作が制限され、症状が進むと寝たきりになってしまうこともあります。
関節の変形が進むと姿勢のバランスが悪くなり、ネコ背やお尻を突き出す姿勢になりがちです。悪い姿勢は外見的に老けて見えるだけでなく、内臓を圧迫し体調不良を招きます。下肢への負担も増し、腰痛やひざ痛を併発します。
安静にしていても、股関節は痛みます。そのため、最初にお話ししたように、寝不足になったり、痛みのストレスからうつ病を発症したり、痛み止めの副作用で胃腸障害を起こしたりする人もいます。このように股関節の不調は、全身に悪影響を及ぼします。
病気が重度に進行した場合、劇的な改善を期待できる治療法は、人工股関節手術です。手術で痛みは取れるので、末期でもあきらめることはありません。
しかし、手術はあくまで最終手段です。まずは股関節に負担をかけないよう気をつけて、病気の進行にブレーキをかけることが大切です。
股関節自体は、骨と骨の接合部分なので、直接鍛えることはできません。そのため、体重を減らし、股関節まわりの筋肉を強くする方法が有効です。
股関節の具合がよくなれば、全身が若返り、気持ちも明るさを取り戻すことができます。具体的な方法を参考にして、股関節の負担を減らしましょう。
解説者のプロフィール

石部基実
1982年、北海道大学医学部卒業。北海道大学医学部整形外科、アメリカRochester大学医学部整形外科、NTT東日本札幌病院整形外科部長、同病院人工関節センター長を経て、2008年に石部基実クリニックを開設し、現職。現在まで、6000例を超える人工股関節手術実績がある。少林寺拳法正拳士四段。