お尻の筋膜が固まるとひざがねじれて負担増大
私は、ひざ痛の患者さんの治療で、ほとんどひざを触りません。
痛みのほんとうの原因は、ひざとは別のところ、「筋膜」にあるからです。
筋膜は、私たちの筋肉を包むコラーゲン性の薄い膜で、弾力性に富み、隣り合う筋肉がこすれることなく伸縮できるようにしています。
筋膜は網の目のように全身に張り巡らされ、「体を支える」「体を形作る」「体を連動させる」という三つの重要な役割を果たしています。
ところが長時間同じ姿勢を取ったり、運動不足が続いたりすると、筋膜が固まります。
すると筋膜の三つの役割に不具合が生じ、体のゆがみや機能の低下が起こり、痛みやコリ、しびれなどが現れるのです。
私は13年前から、筋膜をほぐす施術を行ってきました。年間延べ1200人ほど治療しています。
多くのかたが、長年悩んでいたひざ痛や腰痛などから解放されています。
全身の筋膜のなかでも、特に重要なのが、お尻の筋膜です。
お尻の筋膜は、体の土台である骨盤を支えているため、固まってしまうと、骨盤が傾き、体がゆがみ、痛みや不調を引き起こす原因となるのです。
ひざ痛の多くは、お尻の横にある中殿筋の筋膜が固まることで引き起こされています。
中殿筋の筋膜が固まると、太ももの筋膜を伝わって、ひざ関節周囲の筋膜を引っ張ります。
さらに関節を締めつけたり、ねじれを引き起こしたりします。
また、骨盤がゆがむことで足の長さが変わり、片方のひざに負担がかかることもあります。
このように、中殿筋の筋膜が固まることで、ひざにはさまざまな負担がかかっているのです。
そのため、ひざ痛を改善するには、なによりもまず、中殿筋の筋膜をほぐすことが必要不可欠になります。
お尻ほぐしのやり方

段差をひょいっ!エアロビができる!
私は、ひざ痛の患者さんには、治療時間のほとんどを中殿筋の筋膜ほぐしに費やします。
これで、ひざの痛みが軽快するかたが非常に多いのです。
70代の女性Aさんは、駅から徒歩7分の自宅までもタクシーを使い、玄関の段差を上がれないほどのひざ痛でした。
中殿筋の筋膜ほぐしを続けたところ、ひざ痛が楽になり、今では駅から歩いて帰り、玄関はひょいと上がれるようになりました。
60代の女性Bさんは、痛みでひざを曲げられないほどでした。
病院では、リウマチが原因とされていましたが、通院しても改善しないので、私のもとに来られたのです。
中殿筋の筋膜ほぐしを継続して行ったところ、ひざの痛みが取れて、エアロビクス教室に参加できるまでになりました。
中殿筋の筋膜は、ペットボトルを使って、自分でほぐすことができます。
毎日行うことで、筋膜は弾力性を取り戻し、ひざの痛みは和らいでいきます。
ペットボトルは、炭酸飲料用の強度が高い物を使います。
必ず、中味は水に入れ替えて、しっかりとふたを閉めましょう。
これを使って中殿筋の筋膜をほぐします。
ご自宅にあれば、テニスボールもお勧めです。
詳しくは、上の写真図解をご覧ください。
ペットボトルやテニスボールを使う方法が難しい人は、「お尻スライド法」というストレッチがお勧めです。
中殿筋がジワーッと伸びるのを感じながら、ゆっくり行ってください。
中殿筋の筋膜がほぐれれば、骨盤のバランスも整って、ひざ痛が軽快していくでしょう。
解説者のプロフィール

宇田川賢一
1973年、東京生まれ。エアロビクスインストラクター、競技者として活躍後、筋膜治療の道へ進む。一般の痛み治療はもちろん、運動選手やプロダンサー、モデル、アーティストのサポートも行う。著書に『お尻をもむだけで痛みの9割は消える』(ダイヤモンド社)がある。