「エクスポージャー」と呼ばれている心理療法
昔からの友人知人、会社を中心とした仕事でのつながり以外の人的ネットワークが作れない。大人になってから出会った「初めまして」の人たちとの距離を縮めることができない。
そうした精神的なストレスや悩みを抱えている人は少なくありません。私自身がそのタイプですから、気持ちはよくわかります。
そこで、高いと感じているハードルを下げる、もしくはスッと飛び越えられる力をつけるためのテクニックを紹介します。
これは心理学の世界で「エクスポージャー」と呼ばれている心理療法の1つです。
世界最先端の研究をもとに、幸運を手に入れるための科学的な方法を解き明かした最新刊『運は操れる』より、運を操るメソッドをお伝えしましょう。
高いと感じていたハードルが低くなる
たとえば、高所恐怖症の人がいるとしましょう。克服のゴールは、断崖と断崖を結ぶ吊橋を渡ることです。
最初は果実などを入れる木箱の上に立ってもらいます。「最高をレベル100だとして、不安はどれくらいですか?」「5くらいです」というやり取りの後、徐々に難易度を上げていきます。
難易度が50くらいになると、吊橋の写真を見る段階になります。高所恐怖症の人は、写真を見た時点で脈拍が早くなり、血圧が上がります。それでも写真ですから、見ているうちに慣れてきて、感じている不安も50だったものが、25くらいに下がります。
次はいよいよ、実際の吊橋が見える場所まで移動します。
「渡らなくてもいいです。吊橋に近づき、不安や恐怖が90、限界に達しつつあるところで立ち止まってください」「はい。これ以上は無理です」「わかりました。しばらくここでお話をしましょう」と。
心が落ち着き、不安や恐怖が60になったら、また限界に近い地点まで近づいていくということを繰り返します。すると、最終的には手すりをつかみ、吊橋に一歩踏み出し、向こう側に渡りきることができるのです。
ポイントは時間をかけ、少しずつ試行回数を増やし、ハードルを越えながら心身を慣れさせていくことです。
本人が「怖くても体が慣れれば動けるんだ」と気づけば、高いと感じていたハードルが低くなり、より強い恐怖や不安も克服していくことができます。
名づけて「恥さらしトレーニング」
このエクスポージャーの手法を使って、対人不安を乗り越えたユニークな研究があります。
たとえば、改まって新しい人に出会いに行くのが緊張するならば、電車で隣に座った人に世間話をしてみる、といったチャレンジな手法です。
対人不安によってチャンスを逃していると感じている人が、それを乗り越えるには試行回数を増やし、場数を踏むしかない、という考えが根底あります。
「恥さらしトレーニング」と名づけられた一連のトレーニング法は一見、飲み会の罰ゲームのようですが、ボストン大学の研究室が実行し、確実に効果を上げたエクスポージャーです。
やり方を真似しながら、内容を日本風にアレンジして試す価値はじゅうぶんにあります。
●書店の店員に「すいません。おならに関する本を探しているんですが……」と話しかけてみる
ユーモラスなジャンルの本であれば、おならでなくてもかまいません。大型書店にはあらゆるジャンルの本が揃っていますから、「これはないだろう……」と思うような分野を探してもらっても、迷惑にはならないはずです。
●レストランで近くのグループに話しかけ、「知り合いの結婚式でスピーチをするので、
ちょっと聞いてもらえますか?」と頼む
いきなり見知らぬ人のグループではハードルが高すぎるようであれば、取引先の人たちやパートナーの友人たちなど、顔見知りのグループに向けてやってみましょう。
●有名なスポットの間近で、道行く人たちに「◯◯はどこですか?」と尋ねてみる
東京タワーの前、渋谷のハチ公の前など、そこに見えているというシチュエーションでこそ試しましょう。
●飲食店のカウンターに1人で座り、隣の客に対して、「『マトリックス』に出演していた俳優は誰でしたっけ?」と聞く
映画や俳優は雑談のきっかけをつかむためのキーワードなので、ベストセラー本の作者などでもいいでしょう。見知らぬ人と当たり障りのない会話を楽しむことが、エクスポージャーになります。

一見、飲み会の罰ゲームのようですが、ボストン大学の研究室が実行し、確実に効果を上げたエクスポージャーです
ゲーム形式にして「恥さらし経験」を増やそう
例はほかにもあります。
「レンタルビデオ店でDVDを借りた後、すぐに店内に戻り、同じ店員に話しかけ、『やっぱり返却します。DVDプレイヤーを持っていないので』と告げる」
「薬局で、最も小さいサイズのコンドームをレジに持って行き、女性店員に『これよりも小さいサイズはありますか?』と聞く」
こうした学生の罰ゲーム的な手法も実験の一環として行われ、対人不安をなくすために一定の効果を上げたようです。
「恥さらしトレーニング」は、対人不安を引き起こす原因の1つである「恥をかきたくない」という心理的な壁を、それ以上の恥を経験させることで修正していくものです。
ゲーム形式することで、試行回数を増やすことができ、恥さらし経験の積み重ねによって対人不安を克服していくことができるのです。
基本的に、幸運やチャンス、新しい視点は人からもたらされるものです。人から集まる情報が多ければ、そこに幸運やチャンスにつながるヒントがまぎれている可能性も高くなります。
外向性と運の関連性を意識して行動することで、あなたもきっと運を操る感覚を実感することができるでしょう。
解説者のプロフィール

メンタリストDaiGo
慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒業。人の心を作ることに興味を持ち、人工知能記憶材料系マテリアルサイエンスを研究。英国発祥のメンタリズム(人の心を読み、操る技術)を日本のメディアで初めて紹介し、日本唯一のメンタリストとして多くのテレビ番組に出演。その後、活動の枠を広げて、企業のビジネスアドバイザーやプロダクト開発、作家、大学教授として活動中。趣味は1日10~20冊程度の読書、猫と遊ぶこと、ニコニコ動画、ジム通い。ビジネスや話術、恋愛や子育てまで、幅広いジャンルにおいて、人間心理をテーマに執筆した著作は累計200万部を突破。
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