解説者のプロフィール
かかとからの振動が全身をほぐしリラックス
私は、幼いころから太極拳を学び、トレーニングを重ねてきました。
先日、選手活動の引退を表明しましたが、太極拳の健康効果をもっと多くの皆さんに知っていただくべく、現在はインストラクターなどの活動を行っています。
中国では600年以上前から、健康のためにさまざまな養生体操が行われ、今に残ってきました。その一つである太極拳は、武術と古い東洋医学の思想が融合したもので、「哲学拳」とも呼ばれています。
古くから健康法としても親しまれてきた太極拳ですが、その動作で重要となる部位が、かかとです。
太極拳は、おなかを軽く締め、肩、股関節、腰、ひざ、足首など、すべての関節を緩めて立つのが、基本姿勢です。
こうして、おなかへと意識を集中させながら、おなか以外の力を抜くと、重心がかかとに乗ります。
そして、その姿勢のまま、かかとからゆっくり前に、足を踏み出します。
このように、太極拳の動きは、常にかかとを刺激しますが、太極拳を行う前後でも、かかとに着目した運動があります。
それが、今回ご紹介する「かかとの上げ下げ」です。かかとの上げ下げは、「八段錦」という養生体操の一つです。
八段錦は、太極拳において、準備体操や整理体操のような位置づけです。
では、やり方です。
❶足を肩幅に広げ、体重を足の親指(母趾)側にかけながら立ちます。
❷息を深く吸いながらかかとをグッと上げます。
❸かかとを半分まで下ろしたら、ふっと体の力を抜き、息を吐きながらかかとを一気に床に下ろします。
下ろす際に、しっかりと息を吐き切るのがポイントです。
これを7回くり返します。そして、1日に2〜3セット行ってください。
かかとから全身に振動を与えることで体がほぐれ、リラックス効果が高まります。
そして、足元の血液が心臓に多く戻るので、血行促進にも役立ちます。
足腰が弱っているかたは、転倒すると危険ですので、壁やイス、机などにつかまりながら行いましょう。
眠りのツボを刺激して疲労回復にも役立つ!
人間の体には、目には見えない経絡という、気(生命エネルギー)の通り道が流れています。
気がスムーズに全身を巡れば、血行も促進され、心身ともに健康な状態を保つとされています。
そして、かかとには、腎につながる経絡が通っています。
腎は、西洋医学でいう腎臓を指すだけでなく、東洋医学的には、免疫や生殖機能の働きを支える、生命エネルギーが宿るところとされています。
その腎に気がスムーズに巡ると、腎機能が高まって不要物の排出が促されたり、血行がよくなることで、冷え症やむくみが改善したりします。
また、かかとのふくらみ部分の中央には、失眠というツボがあります。
かかとの上げ下げでこのツボを刺激すると、寝つきがよくなり、疲労回復の効果が高まります。
ですから、寝る少し前に行うと、より効果的です。
さらに、かかとの上げ下げを行うと、かかとへの振動が腰周りや肩の筋肉に伝わり、体がほぐれやすくなります。
体がほぐれると背骨のゆがみが取れて、腰痛改善にも役立ちます。
八段錦のような養生体操は、やってすぐに効果が出るものではありません。
しかし、毎日続ければ内臓が活性化し、体の根本から不調が改善して、健康になっていくのです。
かかとの上げ下げは、とても簡単な動作ですので、リラックスするつもりで、皆さんもぜひ試してみてください。
かかとの上げ下げは、呼吸に合わせて

市来崎大祐
1987年生まれ。大阪府出身。大阪体育大学卒業。6歳から武術を始め、17歳で全日本選手権優勝。2010年の広州アジア大会で銀メダルを獲得し、名実ともに日本の武術太極拳界のエースに成長する。2015年には、世界武術選手権大会で銀メダルを獲得。今夏で現役引退を表明した。現在は太極拳の普及活動のため、学校やイベントで演武活動を行うほか、インストラクターとしても活動中。