疲れやすい速筋が疲れにくい遅筋に変化
運動しなくても、梅をとるだけで脂肪が燃えやすい体に変わる─そんな夢のような梅の効果が、私たちの研究で明らかになりました。
和歌山県では、地元の特産物を健康づくりに生かす(地域イノベーション)プロジェクトが展開されています。
その一環として、私たちは食品会社と協力しながら、梅の効果を科学的に実証する研究を続けています。
これまでの研究で、マウスに梅を与えると、流れるプールで泳げる時間が長くなることがわかりました。
梅には、疲労を和らげる作用があったのです。
そこで今回は、梅を食べさせると、なぜ疲労が和らぎ、持久力が向上するのか、その原因を調べることにしました。
実験方法は、通常のエサ(梅の果実成分がゼロ)を与えたマウスと、梅の果実成分を4%含むエサを与えたマウスで、3週間後にふくらはぎの筋肉を採取し、染色して筋肉の質を比較するというものです。
疲れやすい速筋が、疲れにくい遅筋に変化

有酸素運動と同等のダイエット効果!
私たちはさらに詳しく調べる実験をしました。
マウスを①通常のエサ(運動なし)、②通常のエサ+遊泳運動、③梅を加えたエサ(運動なし)の三つのグループに分けます。
そして3週間後に、骨格筋(骨格を動かす筋肉)から筋肉の質に関係する遺伝子を採取し、測定しました。
すると、③の梅を与えたマウスでは、②の運動をしたマウスと同様な遺伝子の変化が起こっていることがわかりました。
①の通常のエサを食べたマウスに比べて、遅筋化に関わる遺伝子が増加していたのです。
筋肉が遅筋化するということは、持久力が向上するだけでなく、脂肪をエネルギーとして燃やす体に変化しているということです。
つまり、梅を食べると、運動したときと同様に、脂肪が燃えやすくなる効果が得られるといえます。
実際、遺伝的に太りやすいマウスに梅を食べさせたところ、4週間後には、運動させたマウスと同様に、太らないという結果も出ています。
なお、和歌山には、梅を食べさせて育てた「梅鶏」というブランド鶏があります。
飼育者によると、通常、鶏の胸肉は白っぽいのに対し、梅鶏の胸肉はピンク色をしているそうです。
速筋は「白筋」、遅筋は「赤筋」とも呼ばれるように、遅筋は少し赤みを帯びているのが特徴です。
このことから、梅を食べさせることで、鶏の筋肉も遅筋化していると考えられます。
マウスでも鶏でも、梅を食べると筋肉が遅筋化するのであれば、人間でも同様の効果が得られる可能性は、大いにあります。
水泳やジョギングといった有酸素運動と同等のダイエット効果が期待できるのです。
もちろん、運動はダイエット以外にも、脳の活性化など、私たちの体にさまざまな好影響をもたらすので、運動ができる人は行ってください。
しかし、ケガや高齢などで、運動を思うようにできない人にとって、梅を食べることで運動と同等の効果が得られるというのは、まさしく朗報です。
梅の摂取方法としては、梅酢(梅干しを作る際に出る液体)がお勧めです。
なぜなら、私たちが実験に用いて、その効果が立証できているのが、梅酢だからです。
ただし、実験では塩分を取り除いた特殊な梅酢を使っています。
市販の梅酢は、塩分が多く含まれているので、梅酢をとる場合は、1日に小さじ1〜2杯が目安です。
塩の代わりの調味料として料理に用いたり、水で薄めて飲んだりするといいでしょう。
くれぐれもとりすぎないよう、注意してください。
実験では、③の梅を食べたマウスは2週間、②の通常のエサを食べて運動をしたマウスは3週間で、筋肉の質が変化していました。
ふだん運動をしない人であれば、少なくとも3週間は梅酢を持続してとることをお勧めします。
筋肉には速筋と遅筋の2種類がありますが、この実験で用いた方法で染めると、遅筋は速筋より濃い青色(写真では濃い黒色)に染まります。
実験の結果、梅を与えたマウスでは、本来速筋であるはずの筋肉の一部が、遅筋に変化していることが確認できました(写真参照)。
ここで、速筋と遅筋の違いを簡単に説明しましょう。
速筋は、糖をエネルギー源とする筋肉です。
瞬発力を生み出す反面、エネルギー産生の過程で疲労物質の乳酸が生じるため、すぐに疲れるのが特徴です。
一方、遅筋は、脂肪酸をエネルギー源とし、有酸素運動にかかわる筋肉です。
脂肪酸は水と二酸化炭素に変換されるため、疲れにくいのが特徴です。
つまり、梅を食べさせたマウスの疲労が和らぎ、持久力が向上したのは、疲れやすい速筋が、疲れにくい遅筋に変化したためだったのです。