解説者のプロフィール

畠山昌樹(はたけやま・まさき)
大阪大学大学院医学系研究科先進融合医学共同研究講座特任研究員。
1998年、防衛医科大学卒業。防衛医科大学病院研修医を経て、自衛隊医官として仙台市に勤務。自衛隊退官後、大泉記念病院整形外科、石巻ロイヤル病院整形外科部長、八木山整形外科クリニック、第2本郷整形外科皮膚科院長を経て、2018年4月より現職。「本当に健康になる食事」を研究し、畠山式ケトン食を考案。全国で公演や指導を行っている。著書に『驚異のMCTオイルダイエット』(幻冬舎MC)などがある。
糖質と正しくつきあうことが大事
「病気を治す食事は何か」
私は栄養素やカロリー、また、さまざまな科学的なエビデンスを元に研究を続けています。
その中でわかったのは、日本人は糖質の取り過ぎで、それがあらゆる不調の原因になっているということです。糖質は、砂糖が豊富なお菓子だけでなく、ご飯やパン、めん類など炭水化物にも含まれます。
糖質の取り過ぎは、肥満はもちろん、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、動脈硬化などの病気の原因になります。
糖質を一度にたくさん取ると一気に血糖値が上昇し、すい臓からインスリンというホルモンの分泌を強く促します。インスリンには、脂肪をため込む性質があります。
糖質を食べ過ぎる生活を続け、インスリンが大量に分泌されればされるほど、太りやすくなるだけでなく、先に挙げたような、あらゆる病気のリスクが高まるというわけです。ですから、糖質を制限することは、病気を治し、健康になるために欠かせないと言えます。
ただし、糖質自体は決して悪ではありません。
なにより、糖質は筋肉を維持するために必要で大事な栄養素です。問題は、糖質には依存性があり、気づかないうちに食べ過ぎているということです。
糖質を制限することの本質は、糖質を食生活から追放することではなく、〝糖質との正しいつきあい方を身につけて、コントロールする〟ということなのです。
私が患者さんにお伝えしているのは、そうした考えに基づいた、正しい糖質制限の方法です。
それとともにお勧めしているのが、飲む万能油「MCTオイル」です。
筋肉を落とさず体脂肪を効率よく減らす
MCTオイルは、Medium Chain Triglycerideの頭文字を取ったもので、日本語にすれば中鎖脂肪酸です。油の主成分は脂肪酸であり、脂肪酸は炭素が連結される長さによって、「長鎖脂肪酸」や「中鎖脂肪酸」などの種類に分けられます。
サラダ油やオリーブ油は長鎖脂肪酸で、話題となったココナツオイル油には、中鎖脂肪酸が約60%、長鎖脂肪酸が約40%含まれます。
MCTオイルとして販売されているものは、中鎖脂肪酸が100%で無臭でサラサラとしています。
MCTオイルが世に最も注目されたのは、2017年に二度放送されたTBSテレビのダイエット特番でしょう。
このダイエット番組で私は、80㎏以上の肥満の女性タレントたちにMCTオイルを使ったダイエットを指導し、3カ月で最大21㎏の減量に成功しました。さまざまな専門家が指導した他のダイエット法を抑え、二度にわたり圧勝したのです。
その理由は、ダイエット中に「筋肉量が落ちなかったこと」と、「空腹を感じずに楽に継続できたこと」だと思います。
一般的な食事制限でエネルギーが不足すると、体はまず肝臓に蓄えたグリコーゲンをエネルギー源として使用します。グリコーゲンが枯渇すると、次は筋肉を分解してアミノ酸をエネルギー源に使い、それでもエネルギーが不足したときに、ようやく体脂肪の燃焼を始めます。これが「ダイエットすると筋肉から落ちる」理由です。
筋肉が減ると、たとえ体重が減っても体力や免疫力(病気に対する抵抗力)まで落ちてしまうため、疲れやすく、病気にもかかりやすくなり、肌もボロボロになります。当然、基礎代謝(安静時に消費するエネルギー)が落ちるので、やせにくい体質になってしまいます。
一方、ダイエットにMCTオイルを取り入れると、筋肉量を落とさず、体脂肪だけを効率よく減らせます。
MCTオイルは体内に入ると、すぐに肝臓で分解されて「ケトン体」を大量に合成します。すると、体内の脂肪を燃焼してエネルギーを作る「ケトン体回路」が活性化します。
MCTオイルの摂取により、ケトン体回路を使ってエネルギーを生み出せる「ケトン体質」になると、なんとエネルギーの90%を脂肪から消費する状態になります。
さらにケトン体は、満腹中枢を直接刺激して、食欲を抑える働きもあります。冬眠中の動物が空腹を感じずに休めるのは、ケトン体の作用なのです。
これらの特徴により、MCTオイルはダイエットに最適な油だと言えます。
ここにMCTオイルダイエットを実践してもらった体験者のデータを紹介します。Bさんなどは6.2kg落ちた体重のうち、なんと96%以上が脂肪です。これだけ見ても、MCTオイルダイエットがいかに脂肪だけを狙い撃ちできるかがわかります。

目覚めがよく肌もツヤツヤ
実はダイエット番組での指導に先立ち、実際に私も自分の体で実験をしています。2013年の夏から、自らの食生活にMCTオイルを積極的に取り入れることにしたのです。
飲み始めた当初、私はひどい下痢をしてしまいました。油をたくさん食べると、うまく小腸で分解されずに、おなかがゆるくなってしまうことがあります。
それなら、油を分解されやすい形にすれば下痢は解消できるはず。そう思い、豆乳とMCTオイルをよく混ぜて飲んでみました。豆乳と混ぜるのが最も飲みやすく、ある程度乳化します。それでもMCTオイルを15g以上にすると下痢しやすく、レシチンのサプリメントを併用することで治まりました。
5カ月後、82㎏あった体重は18㎏落ちて64㎏に(身長は165㎝)。その7カ月後には、さらに2㎏落ち、1年で20㎏の減量に成功しました。
これだけ体重が落ちても、ストレスや体調不良はまったくなく、熟睡できて目覚めもスッキリ、肌もツヤツヤです。疲れ知らずで、仕事の効率は今まで以上にアップしました。
さらに、採血データも改善しました。肝臓の機能を表すALTの数値は5カ月で46から15に(基準値は30U/L以下)、γ-GTPも32から13まで下がりました(基準値は50U/L以下)。
MCTオイルの医学的な効果を目の当たりにし、私は医学の歴史が変わったと実感したのです。

■畠山先生の肝機能値の変化
ASTとALTの基準値は30U/L以下、γ-GTPの基準値は50U/L以下。これより高いと肝機能が障害を受けている可能性がある
1回に小さじ1杯強を豆乳に混ぜて飲む
MCTオイルに慣れるまでの私がお勧めする方法は、一日4回(朝・昼・夜・就寝前)、小さじ1杯強
(5g程度)のMCTオイルを50~70㎖の豆乳によく混ぜて飲むことです。100円ショップなどで売っているシェイカーを使うと、うまく混ざります。豆乳は無糖であれば、調整豆乳でも無調整豆乳でもかまいません。
慣れたらMCTオイルの量を1回に大さじ1杯強(15g程度)を目標に増やしてみてください。コーヒーやスープ、みそ汁に混ぜてもOKです。
そして、効果を上げるためには、意識的に糖質を減らしていきます。糖質制限の目安は、一日に摂取する糖質量の合計が130g以下です(理想は大人なら80g以下)。
白飯1杯(160g)の糖質量は約60gですから、夕食だけはごはんを抜いたり、小さい茶わんにして毎食のごはんの量を減らしたりするなど工夫をしてみましょう。それでも、MCTオイルの作用で、不思議と空腹は感じないはずです。
■MCTオイルの取り方

❶豆乳50~70mlにMCTオイル小さじ1強(5g)を入れる。(慣れたら15gでもよい)

❷シェイカーなどで、20~30秒よく混ぜて飲む。
※1日4回(朝・昼・晩・就寝前)飲む。
※おなかがゆるくならなければ、大さじ1強(15g)をコーヒーやスープに混ぜて飲んでもよい。
ガンの治療でも注目されている
MCTオイルの効果は、ダイエットだけにとどまりません。
現在、私が特任研究員を務める大阪大学の先進融合医学共同研究講座では、ガン治療とMCTオイルの関係に注目しています。糖質を減らし、MCTオイルを取り入れた食事が、ガン治療にどのような効果を及ぼすのか、その作用機序の解明と普及を目指して日々研究をしています。
2015年には日本癌治療学会において、ステージ4の肺ガンに効果が見られたことが、同大学の萩原圭祐教授によって発表されています。糖質(ブドウ糖)は、ガン細胞のエサにもなります。糖質を制限しMCTオイルを摂取することで、ケトン体をブドウ糖に代わるメインエネルギーにします。エネルギー源はケトン体で確保しつつ、ガン細胞には栄養を与えず弱らせて小さくしていくというメカニズムです。
脳の神経細胞を保護し機能を改善する
MCTオイルのメリット一例
◎おなかがすかない体質に変わる ◎脂肪を効率よく燃やし、筋肉は温存する
◎便秘になりにくい ◎冷え症が改善する ◎ぐっすり眠れるようになる ◎生理痛が軽くなる ◎肌トラブルが改善する ◎免疫疾患が改善する ◎生活習慣病が改善する ◎肝機能が改善する ◎ガンなど重篤な病気を抑止する ◎脳の老化を防ぐ
糖質を制限したうえでMCTオイルを摂取すると、上記のような、さまざまな健康効果が期待できます。その中でも特に注目されているのが、脳への作用です。超高齢化社会において、アルツハイマー型認知症がたいへん増加しています。
健康的な脳とは、炎症がなく、必要な栄養素が過不足なく供給され、常に新しい細胞を作り出せる状態です。アルツハイマー型認知症の脳では、なんらかの理由で脳のエネルギー源の一部である、ブドウ糖がうまく使えない状態になっています。
脳には、脳血液関門という、脳に有害な物質が入らないよう調節する、関所のような役割をする細胞があります。ブドウ糖と同じく、MCTオイルにより合成されたケトン体も通過することがわかっています。しかも、ブドウ糖よりも効率的に脳に届きます。
脳に届いたケトン体は、ブドウ糖に代わるエネルギー源として働き、活性酸素(体内で増えすぎると細胞を傷つけ老化の一因となる物質)や、炎症から神経細胞を保護する働きをします。すると脳が正常に機能し、新たな細胞が作られやすい環境になり、脳の機能が改善すると考えられます。
実際、国立精神・神経医療研究センターの高齢者を対象とした研究において、ケトン体を脳のエネルギー源とすることで、認知機能が改善したという発表が2016年にされています。また、私が食事指導をした50代の若年性認知症の男性は、日常生活がかなり改善されました。
あらゆる効果が期待できるMCTオイルを、ぜひ毎日の習慣として活用していただきたいと思います。

大きめのスーパーで購入できるMCTオイルの例。インターネット通販でも入手できる。