解説者のプロフィール
痛む箇所をグリグリ押すと痛みは逆に大きくなる
昨今、治療業界では「体の痛みは、筋膜のゆがみが原因」という考え方がブームになっています。
筋膜とは、筋肉を包んでいる薄い膜を指します。
この筋膜のゆがみをリセットし、体の痛みを取り除こうと、多くの治療家や識者が、さまざまな手段でアプローチしています。
しかし、ゆがみを取り除くのは、筋膜だけでいいのでしょうか。
実は、膜に包まれているのは、筋肉だけではありません。
骨を包む骨膜、関節を包関節包、心臓を包む心膜など、私たちの体を構成している全器官は、筋肉同様、薄い膜に包まれているのです。
このように、全身を包むすべての膜を総称して「膜組織」といいます。
私たちの体は、この膜組織が積み重なって形作られているのです。
例えば、腕の断面図をイメージしてください。
体は膜組織が何層も重なりできている

中央には、体を支える骨があり、その骨を骨膜が包んでいます。
そこから外側の皮膚に向かっていくと、
❶ 骨と骨膜→❷ 筋膜に包まれた内側の筋肉(インナーマッスル)→❸ 筋膜に包まれた外側の筋肉(アウターマッスル)→❹ 膜組織に包まれた皮下脂肪→❺ 皮膚
という順番で重なっています。
膜組織のゆがみが悪化すると、さまざまな体の痛みを引き起こす
このように、腕に注目しただけでも、いくつもの膜組織が積み重なっていることがわかります。
このような層が、腕だけではなく、私たちの全身にスッポリと収まっています。
そのため、全身の膜組織は、それぞれに密接な関係性を持ったネットワークを形成しているのです。
膜組織は、鶏肉のうす皮のような、半透明の薄い膜でできています。
脆弱そうな見た目とは裏腹に、ピアノ線ほどの強度を持っています。
この強靭な膜組織が、筋肉や脂肪、内臓などを包んでいるからこそ、私たちの体はしっかりと形作られているのです。
これがゆえんで、膜組織は「第二の骨格」とも呼ばれています。
正常な膜組織は、柔軟性に富み、私たちの動きに応じて滑らかにしなり、変幻自在に形を変えます。
つまり、柔軟な膜組織があるからこそ、スムーズな動作が可能になるわけです。
しかし、加齢や悪い姿勢、不健康な生活習慣などが原因で、膜組織がかたくゆがんでしまうと、歩きづらくなったり、関節が曲がりにくくなったりします。
そして、膜組織のゆがみが悪化すると、さまざまな体の痛みを引き起こすのです。
誤解しているかたがほとんどですが、体の痛みは、必ずしも痛みが現れている部分の筋肉に起こっているわけではありません。
そもそも痛みは、膜組織が受け取った刺激を、脳が「痛い」と感じ取っているものです。
膜組織の表面には、痛みや温度などの刺激を受け取る受容器が、無数に存在します。
膜組織がゆがんだりかたくなったりすると、受容器から受け取る刺激に狂いが生じ、脳に誤った刺激が送られます。
すると、通常なら痛みを感じない刺激でも、脳は「痛い」と勘違いしてしまうのです。
さらに、膜組織のゆがみは、その周辺の神経や血管を圧迫する場合もあります。
この場合も、脳は「痛い」と感じ取ってしまいます。
痛みを取るには、ゆがんだ膜組織をほぐすことが必要なのです。
ところが、多くの人は、痛みを感じている部位の筋肉を、グリグリと強い力で押したり、バキバキと関節を曲げるようなマッサージを受けたりしています。
実は、それらは逆効果で、さらに痛みを大きく感じる原因となります。
私たちの体の約7割は、水分で構成されています。
膜組織も同様に、非常に多くの水分を含んでいます。
前述したように、皮膚の下には膜組織の層がありますが、そこを強くマッサージすると、膜組織の水分が押し出され、かたくなってしまうのです。
腰の激痛が和らいだ!術後の歩行困難が改善!
では、どうすれば膜組織はほぐれるのでしょうか。
そこで、皆さんにお勧めしたいのが、私と山岸茂則先生が考案した「うつぶせユラユラ」です。
うつぶせになってお尻をユラユラと揺らすだけで、おなかへの刺激や、ユラユラするリズムによって、全身の膜組織のゆがみがほぐれます。
膜組織がやわらかくなれば、脳に伝わる情報が正常に戻るため、「痛い」という誤った情報を感じなくなるのです。
さらに、体をユラユラさせるリズムは、脳と体のリズムのズレを調節し、運動機能の向上にもつながります。
このリズムのズレは、さまざまな不定愁訴の原因にもなるので、それらの改善にも役立ちます。
実際に、うつぶせユラユラを実行した人からは、「腰の激痛が和らいだ」「原因不明の回転性めまいが完治した」「人工股関節手術後の歩行困難が改善した」「姿勢がよくなった」など、喜びの声が続出しています。
長年治療しても改善しない原因不明の痛みや症状などは、膜組織のゆがみが原因である可能性が高いと思います。
実際、私と山岸先生は、痛みに悩む多くの患者さんを、膜組織の調整によって、痛みから解放してきました。
ぜひ皆さんもうつぶせユラユラを試し、全身を膜からほぐしてください。
うつぶせユラユラのやり方

舟波 真一
1971年生まれ。理学療法士。人間環境情報修士。諏訪赤十字病院勤務などを経て、バイニーアプローチセンターを設立、施術にあたる。山岸茂則先生との共著に『痛みはうつぶせで治しなさい』(小学館)がある。
●バイニーアプローチセンター
http://www.bini-center.com/