解説者のプロフィール
すねの骨とかかとの骨のズレが痛みの原因だった
腰痛やひざ痛など、痛みの症状を慢性的に患っている人には共通点があります。体の土台となる、足の骨格のゆがみです。
私は、初めて来院された患者さんには経緯を詳しく聞き、主訴の痛みが1年以上続いている場合、患者さんの足首を後ろから撮影させてもらいます。
するとたいてい、くるぶし部分が内側に傾き倒れている「過回内」が見受けられます(下図参照)。これは、垂直に結合するはずの、すねの骨とかかとの骨がずれているために起こる現象です。なぜこうした「ズレ」が生じるのでしょうか。
舟状骨が正しい位置におさまらないと足にゆがみが生じる

そもそもは、土踏まずの真上にある「舟状骨」(図参照)という骨が地面に向かって落ちていることが原因です。これは足に合わない靴や、運動不足、高齢者であれば足のねんざなどを機に発生する現象です。
舟状骨は、足の縦アーチを形成している「要石」です。ここが正しい位置に納まらないと、足にゆがみが生じます。偏平足、外反母趾、内反小趾など足トラブルの原因にもなります。
足は体の土台なので、ゆがみは下から上に、ひざ、腰、肩など全身に波及し、痛みとなって現れます。耳鳴りや頭痛、頸椎症、顎関節症なども、足のゆがみが根本原因になっているケースがあるのです。
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では、落ちた舟状骨を引き上げるには、どうすればよいのでしょうか。実は舟状骨は、足の裏に回り込んだすねの筋肉により、下から支えられています。
ですから、すねの筋肉を鍛えて土踏まずを形成すれば、下から押し上げるように、舟状骨の位置を矯正できるのです。
また、すねには2本の長い骨があり、これらは、骨間膜という、かたくて強い膜でつながっています。骨間膜がスムーズに動くことで、2本の骨の間が狭まったり広がったりと、連動する構造になっています。
骨間膜がうまく機能することで、すねの骨が自在に動き、かかとの骨に垂直に結合するようになります。すると、足首の過回内が改善。土台を整えることができれば、その上に乗るひざや腰、上半身の痛みなどの症状も、快方に向かうのです。
そこで、過回内が見られる患者さんに、私が提案しているのが「かかと落とし」です。
ただし、私の勧める方法は、一般的なかかと落としと、多少異なります。平らな床で行うのではなく、足のつま先側を3分の1程度、台の上に乗せ、段差を利用して行うのです。
段差を使う!かかと落としのやり方

【準備する物】
3cmほどの高さの台(大きめの雑誌やカタログを束ねて包むとよい)
❶足の前に台を置き、壁に両手をついて立ちつま先側を3分の1程度、台の上に乗せる。足は壁に向かって垂直にそろえ、肩幅に広げる。
❷ひざを伸ばしたまま、両足に均等に体重をかけ、かかとを上げ下げする。下げたとき、かかとは床につける。リズミカルに行う。
★1日に80~100回を目標に、毎日行う。何回かずつに分けてもよい。痛みなどの症状がある場合は、10~30回程度でも可。
かかとを上げると、すねの骨間膜が縮まります。下げて床につけると、今度は骨間膜が最大限に引き伸ばされます。段差を使ってトントンすることで、骨間膜の可動域を、より広げることができるのです。
また、段差がある分、衝撃も強くなります。負荷が高まるので、それだけ症状の治りも早いでしょう。
最近は、かかと落としで骨に衝撃を与えると骨からホルモンが分泌され、全身の健康に役立つと、話題になっています。
これまで、そうとは知らずに患者さんに勧めてきましたが、強い衝撃で骨ホルモンが出たことも、奏功しているのかもしれません。きちんと実践されたかたは、いい結果を出しています。
50代の女性の患者さんの例を挙げましょう。慢性腰痛で、100~200m程度しか歩けない状態で来院しました。このかたは、左足が偏平足でした。
かかと落としを勧めたところ奮起して、初日から100回を達成。熱心さが実り、わずか3日の実践で3kmも歩けるまでに回復したのです。偏平足も、状態がよくなりつつあります。
足首の過回内は、整体や鍼灸治療では根本的に治りません。自力で治すしかないのです。
骨が正しい位置に定着するまで、少なくとも1ヵ月は続けてください。きっと、変化を実感できるでしょう。
弓削周平
https://www.ishibashikomorebi.com/
木もれび鍼灸院院長。鍼灸師。長春中医薬大学中医学士、同大学客員教授。吉林省公認推拿師。北摂中医鍼灸研究会代表。鍼灸専門学校を卒業後、中国に5年間留学し、中医学と漢方・鍼灸を体系的に学ぶ。帰国後、日本鍼灸を学び直して木もれび鍼灸院を開業。伝統鍼灸に特化した治療に実績がある。
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