冷えが痛みを増悪させる悪循環の原因!
ペインクリニックとは、体の痛みを和らげる専門医院のことです。
当院にも腰やひざ、頭などに深刻な痛みを抱えて、連日おおぜいのかたが訪れます。
例えば、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニア、座骨神経痛などです。
これらの難治性の痛みの場合、なかなか症状が改善しないことが少なくありません。
複数の病院を渡り歩いてもよくならず、困り果てて私のクリニックに来るケースが多いのです。
こうした場合、投薬やブロック注射などの治療に加え、私は患者さんに、ある生活上のアドバイスを提言しています。
それが、おしりを温めることです。
痛みを悪化させ、治りにくくさせている大きな要因の一つが、体の冷えです。
それは、第1に体の冷えが自律神経のバランスをくずすことによります。
自律神経とは、私たちの体の諸機能をコントロールしている神経のこと。
いわば、生命活動の根幹を担っているといっても過言ではありません。
自律神経には、主に昼間の活動時に働く交感神経と、夜の休息時に働く副交感神経の2種類があります。
両者がバランスよく働くことで、私たちの健康状態は維持されているのです。
体が冷えていると、体が緊張して、交感神経が優位の状態が続きます。
すると、血管と筋肉が収縮し、血流が滞りがちになります。
血行が悪くなれば、組織に酸素や栄養素がじゅうぶんに行き渡りません。
それが、痛みの悪化の要因となるのです。
同時にまた、痛みによって血行が悪くなり、さらに冷えやすくなります。
その冷えが新たなストレスとなり、交感神経を優位にし、血行がいっそう悪化して痛みを増悪させる、といった悪循環を招いてしまうのです。
さらに、慢性的な痛みを抱える人は、痛みが日々くり返されることによって、より痛みを感じやすい体になっていきます。
わずかな刺激に対しても、それを痛みとして感じ取ってしまう反応システムが、患部と脊髄との間に出来上がり、それが痛みを先鋭化してしまうのです。
そして、この反応を強化しているのも体の冷えなのです。
ストレス冷えが解消し全身が効率よく温まる
体の冷えは、外気や生活習慣の悪化によってもたらされる一方、現代社会において、その大きな要因にストレスが挙げられます。
実際、痛みに悩む患者さんを診ると、大きなストレスを抱えていることがわかります。
私は慢性的なストレスが招く冷えを、「ストレス冷え」と呼んでいます。
ストレス冷えは、交感神経を過剰に緊張させて、体に痛みやコリを生じさせるだけではありません。
ストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール」の分泌を促すのです。
すると、血糖値やコレステロール値が上昇し、免疫力が低下してしまいます。
高血糖状態が続けば、糖尿病だけでなく、心筋梗塞や不整脈などの心血管疾患や、ガンのリスクも高まります。
さらに、高血圧や高脂血症の要因にもなりかねません。
まさに、ストレス冷えは、万病の元なのです。
このように、冷えには、通常の冷えと、ストレス冷えがあることがわかっていただけたかと思います。
そして、この両方の冷えを、最も効率的に取り除く方法が、前述した「おしりを温める」ことなのです。
それは、おしりが生物学上、とても重要な場所だからです。
おしりには、仙骨静脈叢と呼ばれる、静脈の交流地点があります。
心臓から送られた血液がいったん足先まで巡り、そして、心臓へと戻るときに通過するのが、この仙骨静脈叢なのです。
ここを保温すれば、血液が温かいまま心臓に戻ります。
すると、おしりだけでなく、全身を効率的に温めることができるのです。
おしりを温めることでストレス冷えが解消していき、自律神経のバランスが整ってコルチゾールの分泌もおさえられます。
脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアによる腰の痛みやしびれ、座骨神経痛、ひざ痛、さらに、糖尿病や高血圧、心筋梗塞といった生活習慣病の進行を防ぎ、改善へと導いてくれるでしょう。
では、実際に、どのようにおしりを温めればいいのでしょうか。
それは、別記事で詳しくご説明したいと思います。
富永喜代
2008年、愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開設。医師、医学博士。『冷え、こり、痛み、ストレスも、コレで撃退!ヒップはらまき』(中央公論新社)など、著書多数。
●富永ペインクリニック
http://www.tominaga-clinic.net/